山添 拓 参議院議員・日本共産党

国会報告

2016年・第192臨時国会

TPP協定のISDS条項の危険性を告発 公共の福祉が攻撃対象に

要約
  • TPPに盛り込まれたISDS(投資家対国家紛争解決)条項の危険な仕組みを指摘し、日本政府の「日本は訴えられない」という答弁を厳しく批判
  • 石原伸晃TPP担当相は「個々の事例(の詳細)を承知していない」と、答弁回避

○山添拓君 日本共産党の山添拓です。
私からは、先ほども話題になりましたが、ISDS条項について伺います。
ISDS条項はTPPの中核的規定の一つとされています。外国投資家が、投資協定に違反する投資先国の政府の行為について、その投資先国の政府に対して損害の賠償を求め、国際仲裁に付託できるようにするものだと。
TPPにISDS条項を盛り込むことについては、オーストラリアの前の政権が強い反対を示し、あるいは環大西洋のTTIPでも、フランスやドイツの閣僚、EU議会の第二会派などからも反対の意思が示されてきました。アメリカやヨーロッパの市民団体からTPPやTTIPのISDS条項について相次いで懸念が表明されています。
日本でも、日本政府が訴えられることはないのかと懸念する声があります。訴えが認められれば、国民の税金から多額の賠償金を払うことになり、賠償請求を避けるために現在の法規制を改めたり、あるいは新たな規制の強化をためらったり、国民の命と暮らしを守るルールを後退させることにつながりかねないからです。
しかし、政府はこの間、TPPのISDS条項によって日本政府が訴えられることはないと説明してきました。大臣に伺いますが、その根拠は何か、訴えられても敗訴することはないというふうにもおっしゃっていますが、その根拠は何か、お答えください。
○国務大臣(石原伸晃君) 山添委員にお答え申し上げます。
もう委員御承知のことではございますが、ISDSについては、海外からの投資に関して、先ほどもお話をさせていただいた内外無差別、正当な補償なしに収用をしないなど、TPP協定いわゆる第九章の投資章に規定されている義務に国が違反して投資家が損害を受けた場合に仲裁廷に損害賠償又は原状回復のみを求める訴えを提起できると記載されております。
これらの義務は、TPP協定第九章第十六条に明記されているとおり、環境や健康などの正当な目的のために各国が必要かつ合理的な規制を差別的でない形で行うことを妨げるものではない、また、我が国が必要な例外規定や留保を置くことによりまして国内法との整合を図っているところでございます。
既存の投資協定においても、これは外務大臣から御答弁させていただいておりますけれども、我が国は協定上の義務に違反するような措置は過去にとったことはなく、その結果、これまでISDS条項を使って訴えられたことはございません。これは事実でございます。
TPP協定においても、協定上の義務違反となるような措置を我が国がとる、仮にですね、内外無差別ではなくて一社に対してですね、この一社を狙い撃ちにして規制を掛けるとか、あるいは投資して工場をつくったと、その工場で火事が起こったけれども消防車が行かないと、そういうことをやるとは私は考えられないと思います。ですので、仮に訴えられたとしてもISDSで敗訴することは想定されていないと御答弁をさせていただいたわけでございます。
以上によりまして、我が国がISDS条項によって結果として規制の変更を余儀なくされることや必要な規制の新設、改組ができなくなることは考えられないと話をさせていただいております。
しかし、委員の御懸念にございましたとおり、万全の体制を外務省の方で整えているということにも代表されますように、先進国政府が実は敗訴しているケースがあることは事実でございます。しかし、その事例を詳細に見てみますと、表向きは公共目的のための内外無差別な体制を取っていても、実際には、先ほどお話をさせていただいた、特定の外国企業を差別する意図があったと立証された場合や、あるいは政府の手続が不透明、不適正な場合でございまして、このようなことは我が国では考えられない、日本政府が敗訴することは想定されないと答弁をさせていただいたところでございます。
○山添拓君 いろいろおっしゃいましたけれども、何点かに整理しますと、一つは、例外や留保規定があるから大丈夫だということをおっしゃった。これは留保条項に、事項に当たるかどうかというのは最終的にTPP委員会の解釈に委ねられるとされています。ところが、TPP委員会がいかなる組織であるのか、これは昨日、紙智子議員の質問でもほとんど何も決まっていないということが明らかになっています。かつ、TPP委員会は全会一致とされますので、そこで九十日以内に判断がされなければ、最終的には仲裁人の判断になる、仲裁廷に戻って、結局仲裁人が留保事項に入るかどうかも判断するということになります。
あるいは、資料の一にもありますけれども、政府は、日本が提訴されないということの根拠の一つに、これまでに我が国が提訴された事例はないということを言ってきました。しかし、韓国政府も米韓FTAの締結前には、今まで一度も韓国は訴えられていないんだと、先進国である韓国は米国からも他国からも訴えられることはないというふうに説明してきたんです。ところが、実際には締結から一年もたたないうちにアメリカ企業から五千五百億円もの損害賠償をされるに至っています。到底信用できないことだと言わなければなりません。
資料の一、もう一度御覧いただきますが、政府は、濫訴防止、むやみにあるいは無法に訴えるのを防ぐ、こういう仕組みをつくってきたというふうに説明してきました。国会決議でも、濫訴防止策等を含まない、国の主権を奪うようなISD条項は合意しないとしています。TPP協定でいかなる濫訴防止策を盛り込んだのか、具体的な規定は何か、大臣、御説明ください。
○国務大臣(石原伸晃君) ただいま山添委員がお示しいただきました資料一、いわゆるISDS手続の濫訴防止についてでございますが、大まかに申しまして四つぐらいあるのではないかと思っております。投資章であります第九章の各条に設置をされております。法的根拠のない申立て等については迅速に却下することができる規定、これは第九章の第二十三条でございます。仲裁廷における全ての事案の判断過程、最終判断等を原則として公開することを義務付ける規定、第九章第二十四条でございます。申立て期間を一定の期間、三年六か月に制限する規定。第四、申立てに根拠がないと認められる場合、仲裁手続費用等を投資家に負担させることができる規定などが盛り込まれていると承知しております。
○山添拓君 資料には他に、懲罰的損害賠償を命じることはできないとする規定というものも書かれています。
大臣、この中で、今資料一で示している中でTPPで初めて導入する規定というのはあるんでしょうか。
○国務大臣(石原伸晃君) 申し上げます。
一番最初に申しました法的根拠のない申立て等については迅速に却下することができる規定、すなわち法的根拠がないのに訴えてもそれは駄目ですよということでございます。そして、仲裁廷における全ての事案の判断過程、最終判断等を原則として公開することを義務付ける規定、仲裁廷で議論されていることに対してオープン性を……(発言する者あり)今答えております。オープン性を担保する。そして三つ目が、申立てに根拠がないと認められる場合、仲裁手続費用等を投資家に負担させることができる規定、むやみな濫訴をした場合に、そういうことは投資家、訴えた側に費用を負担させますよ。この三つが考えられます。
○山添拓君 今の三つ目は資料の一の中には入っておりませんでして、外務省も濫訴防止のための規定だというふうには考えていないものですよ。それを御説明されるのはおかしいと思います。
ちなみに、ここの資料一で挙げられている四つの規定というのは全部これまでの協定でも入っているんですね。目新しいものは一つもありません。最初に説明された先決問題だと、あるいは申立て期間の制限、ここにあります懲罰的損害賠償禁止、いずれもNAFTA、アメリカ、カナダ、メキシコでつくる北米自由貿易協定には導入されています。手続の公開についても、規定ぶりは違いますが入っています。先決問題の却下というのは説明ありましたので省きますけれども、これは当然の規定なんですね。審理の公開については提出書面を投資家が非公開とする権利も留保されています。
申立て期間ですが、NAFTAではこれ何年にされていますか。
○国務大臣(石原伸晃君) NAFTAとの比較で私は先ほどお話をさせていただいたものでございますが、先決問題、迅速却下についてはNAFTAにはございません。全ての事案の公開ということもNAFTAにはございません。根拠のない申立て、手続費用等の投資家の負担、これは濫訴の防止にならないということをおっしゃりますけれども、やっぱりむやみに濫訴を、むやみに訴えて、そしてその費用を弁済させられるとなるとやっぱり抑止が働くものと私は考えております。
そして、今の御質問でございますが、申立て期間の制限でございますけれども、NAFTAにおいては三年でございます。
○山添拓君 TPPでは三年六か月なんですね。むしろ長くなっているんですよ。
懲罰的損害賠償について、これ外務省にわざわざ書いてあるから聞いているんですけれども、ひどい違反をする者に対して制裁的に実際の損害額に上乗せして賠償させるというもので、日本ではそもそも認められていない理屈ですから当然だと思いますが、何が懲罰的であるかという定めはTPPの協定の中にはあるでしょうか。あるかないかお答えください。
○政府参考人(澁谷和久君) 投資章には特段の定義は置いてありません。
○山添拓君 懲罰的であることの基準がない以上は、最終的には仲裁廷が損害賠償額をどのように評価するかによって恣意的に判断され得ると考えます。逸失利益が何十年もわたるのだと認定されれば、賠償額は高額になります。そもそも、各国が多額の損害賠償を請求している実態を考えれば、この懲罰的損害賠償の問題は濫訴防止の実効性はないと言うべきだと思います。
NAFTAで二〇一六年十月までのISDS提訴事例のうち、米国企業が提訴したのは何件か、また、係争中のものを除いて、米国企業の勝訴の件数と米国以外の企業が勝訴した数は何件か、それぞれお答えください。
○政府参考人(山野内勘二君) お答え申し上げます。
NAFTA加盟国、すなわち米国、カナダ、メキシコ、それぞれの政府のホームページで公表されている本年十月一日時点での情報によりますと、NAFTAのISDS仲裁手続に基づいて米国投資家が提訴した件数は五十件ございます。そのうち米国投資家が勝ったものが八件というふうに承知しております。また、NAFTAのISDSの仲裁手続に基づいて米国以外の投資家が提訴した件数は十九件である、そのうち投資家が勝訴した事例はないというふうに承知しております。
○山添拓君 資料の二を御覧いただければ、そのことが書かれています。NAFTAでは全部で六十九件の提訴があったとされています。
TPPと同様の濫訴防止規定が既にあるにもかかわらず、なぜNAFTAでこれほどの提訴件数に上っているのか、大臣、お答えいただけますか。
○国務大臣(石原伸晃君) ちょっと質問の趣旨が分からなかったんですが、仲裁付託案件がなぜ変わったかという御質問のように聞こえたもので、なぜかということには、そのなぜ訴訟を起こしたか分からない以上は分からないというふうに今そこでちょっと話しただけでございます。
○山添拓君 お答えになっていないと思いますが。
アメリカ企業の提訴が圧倒的に多いんですよ。勝訴したのもアメリカ企業だけです。アメリカ企業にとって濫訴防止に役立っていないということにほかならないと思います。
TPPによって、これまでISDS条項を含む投資協定のなかった日本と、アメリカやカナダあるいはオーストラリア、ニュージーランドとの間でもISDSが盛り込まれます。
資料の三を御覧ください。日本に対する二〇一四年の直接投資額、アメリカが四七・七%、オーストラリアは四・六%、アメリカが圧倒的です。これまでに提訴されたことがないからといって、アメリカの企業が日本を訴えない保証などありません。政府はそれでも日本は提訴されないというふうに言うのでしょうか。大臣、お答えください。
○国務大臣(石原伸晃君) 先ほども御答弁させていただいたのでございますが、個々の案件について、投資家がどういう理由で米国を、あるいは米国の企業が他の国を提訴したかという理由が分からない以上は、なぜその数字が、アメリカ側の企業が八勝って反対の場合はゼロかということは誰も分からないんじゃないかと思っております。そういうことを御答弁させていただいたわけでございます。
○山添拓君 ちょっと答えていない。(発言する者あり)もう一度、じゃ聞きますけれども、それでも日本は提訴されないというふうになぜ言い切れるのか、これを聞いているんですよ。
○国務大臣(石原伸晃君) 何度も申しましたとおり、日本の規制が、仮にアメリカの企業が困るような、一社が困るようなことをすればもちろん提訴されると思いますけれども、これまでのように、日本の企業がそのようなことをやってきて、日本の国がそのような規制をつくってきたことはありませんし、これからも、新たな規制を設けるのであるならば国会で御審議をいただくわけでございますので、そんなものができる可能性は極めて低いのではないかと御答弁させていただいたところでございます。
○山添拓君 余りにも危機感がないと思いますね。
先ほど、最初の質問に対する答弁の中で、公共の福祉を目的とするもの、環境や健康のための規制について、正当な目的というふうにおっしゃいましたが、そうした規制については守られるんだという政府の説明があります。これ、信用に値するものなのか、既に生じている事例から明らかにしたいと思います。
カナダ政府に対してアメリカ製薬大手のイーライリリーが仲裁を通告した事件があります。どのような事件か御説明いただきたい。
○政府参考人(山野内勘二君) お答え申し上げます。
米国の製薬企業イーライリリー社がカナダ政府を訴えた事例については、イーライリリー社の製品が取得していた特許について、その製品に有用性がないということを理由にカナダ連邦裁判所が無効とする判断を下したと、こういう事例がございまして、これを受けてイーライリリー社がNAFTAの規定に基づいてカナダ政府を相手取って二〇一三年に仲裁に付託したものというふうに承知しております。
○山添拓君 カナダの裁判所というのは、近年、特許を与えるための要件である医薬品の有用性、これについて厳しい判断を下すようになっています。リリーが提出したデータの臨床試験はデータ数が少なく期間も短い、したがって有用性の要件を満たさないと裁判所は判断されました。要するに、国民の生命、身体の安全を確保できないと裁判所が判断したわけです。
このリリーは、自らに対する判決だけでなく、カナダの特許法や判例法自体も含めて、薬の特許を無効とした措置が投資財産を収用するものだと主張して、五億カナダ・ドル、大体四百億円ですが、損害賠償を請求しています。今、収用と言いましたのは、直接的な収用、没収され国有化される場合だけでなく、間接的な収用、得られるはずの利益が得られなかったということも含まれます。
カナダの裁判所が国民の生命、身体の健康、安全のために特許法を解釈し、判例法理を築いて、またカナダの特許行政も判例法理を取り込んで充実させてきた、こういうルールについてアメリカの企業が不当だと指摘をしている、法整備が既になされているカナダのような国において制度そのものをターゲットにするような主張がされています。医薬品の有用性判断を厳しくするのは、国民の生命、健康のためです。こうした措置がISDSの対象となることはあり得ますし、現に起きているわけです。
大臣にもう一度聞きますが、TPPにおいて、なぜ日本は公共の福祉を目的とする規定や措置について間接収用を理由に訴えられることはないと言えるのか、お答えください。
○国務大臣(石原伸晃君) リリー社の案件につきまして、何をもって科学的に立証されたものであるかという知見を私は持ち合わせませんので、今の御質問の前提条件に沿って御答弁することはできませんけれども、TPPにおいて間接収用に関して訴えを提起されることがあるのかという一般論としてお答えさせていただくならば、例えばでございますけれども、適正な手続を経て工場を造ったと、間接的な形でその工場を追い出す、すなわち、土地改良を行うから、おまえ、出ていけというようなことをやったとするならば、補償することなく恣意的に狙い撃ちで規制を強化し操業不能とさせるような国による行為というものだと私は思います。
すなわち、公共事業における買収のような正式な手続を取らずに直接的な収用と同等の効果を有する場合を私は間接収用に関する提訴の一つの例としてお答えさせていただきたいと思います。そして、適切な補償を伴わないような間接収用は、協定違反を構成いたしましてISDS手続の対象となる可能性があるということは事実であると思います。
○山添拓君 間接収用を理由に訴えられることはないと言えるのかどうか、このことに対して答弁いただけますか。
○国務大臣(石原伸晃君) 同じ御答弁になって恐縮でございますけれども、適切な補償を伴わないような間接収用、要するに、直接的に規制を作るわけじゃなくて、その規制の外で違うことをやって例えば追い出すようなことがあった場合に、補償を伴わない場合はISDS手続の対象となる可能性があるというふうに御答弁をさせていただきました。すなわち、ある行為が間接収用を構成するか否かについては事案ごとに事実に基づいて判断される、これは当然のことだと思います。
TPP協定の附属書の九のBにおきまして、公共の福祉に係る正当な目的のために各締約国が行う差別的でない規制は極めて限られた場合を除くほかは間接収用を構成しない、その範囲を誰がどう決めるかというのはその各々の個々のケースによって決まるというふうに理解をしているところでございます。
○山添拓君 最後に各々のケースによって変わるとおっしゃいました。つまり、正当な目的と言えるかどうかというのは仲裁廷が判断するわけです。判断基準も事案ごとです。事案ごとに選ばれる僅か三人の仲裁人が基準も結論もその時々に判断します。先例拘束性もありませんので、以前に同様の事例があったとしても同じ結論になるとは限りません。国民の代表である国会が関与するわけでもなく、憲法や判例との整合性をチェックする裁判所とも異なる場で、国内の法規制や行政処分、刑事処分、裁判所の判決までも、あらゆる措置が審査されるということです。
この公共の福祉に係る正当な目的、今御紹介があった条項ですが、この正当な目的と言えるかどうかというのは、では、誰が主張し立証する責任を負うのか、何をどのように立証するのか、これをお答えください。
○国務大臣(石原伸晃君) 専門的でございますので、ちょっと条文も読ませていただきたいと思います。
挙証責任に関する規定ということが、いわゆる第九章の二十三条七項に書かれております。投資家は、この節の規定による請求、締約国が第九・六条待遇に関する最低基準の規定に違反した旨を主張する請求を含む、を付託する場合には、国際的な仲裁について適用可能な国際法の一般原則に従い、自己の請求の全ての要素を立証する責任を負う、TPP協定第九章、投資でございます。
この先ほど御紹介をさせていただきました附属書九のB、収用の中で規定されております公共の福祉に係る正当な目的に当たるかどうかは、先ほども御答弁させていただいておりますが、具体的な事案に即して仲裁廷が個別に判断することになると認識をしております。その上で申し上げますと、例えばでございますが、正当な目的を装いながら実際には不当に外国人投資家の投資財産を収用することを目的とした措置は本条の違反と判断されると考えられるところでございます。
なお、第九章二十三条七項、先ほど御説明をさせていただいた項目でございますが、投資家は、ISDS手続に請求を付託する場合には、国際的な仲裁について適用可能な国際法の一般原則に従い、自己の請求の全ての要素を立証する責任を負うこととされている、すなわち一義的には投資家が立証する責任を負うのではないかと考えております。
○山添拓君 附属書の九のBをお読みになっているんですけれども、これ、間接収用に当たるというところまでは投資家の側が主張立証責任を負うでしょう。しかし、その規制が公共の福祉のためのものだということ、つまり例外的に規制をしてもいいんだということの主張立証責任はどちらが負うべきものなのか、基本的にはどちらが負うべきものなのか、これをお答えください。
○国務大臣(石原伸晃君) 先ほどケースごとの話をさせていただきましたが、一義的には投資家サイドだと考えております。
○山添拓君 投資家サイドが正当な目的でないということまで立証責任を負うということですか、そういう理解でよろしいんでしょうか。
○国務大臣(石原伸晃君) 一般的には、投資家が一義的には立証責任を負うと考えております。
○山添拓君 それは私は違うと思いますね。通常であれば、投資家の側は協定義務違反があったということと、損失についての立証責任を負うわけです。これに対して政府の側が、公共の福祉のためだ、健康や環境を保護するためのものだ、この立証責任を負うのが通常だと思います。訴えられた日本政府が証明しなければならないということになるだろうと、通常であればそうだと思います。
あるケースを御紹介します。
カナダ政府が人体に有害な神経性物質を石油製品に混ぜるのを禁止しました。アメリカの石油会社が多大な損害を被ったとして、カナダ政府を相手に訴えました。仲裁では、健康被害が科学的に証明されていないために、カナダの非関税障壁だと決まりそうになった。カナダ政府は一千万ドルの和解金を支払ったというふうにされています。つまり、カナダ政府の側でこの物質が人体に有害だ、健康被害があるということを証明しろというふうに仲裁の中で圧力が掛けられたわけです。
こういう証明が必要だということになりますと、安全性が確認されていないものについて予防的に規制する、予防原則に基づく安全優先の措置はとれなくなると考えます。
今の附属書の九のBについて続けて聞きますけれども、極めて限られた場合にはという条文もあるわけです。極めて限られた場合には、公共の福祉に係る正当な目的による規制であったとしても間接収用に当たる、こういう条文です。だから、極めて限られた場合にはこれが重要だと、原文ではイン・レア・サーカムスタンシーズとなっていまして、素直に読めばまれな状況です、もっと緩いわけです。
衆議院では、参考人の岩月浩二弁護士が、議論を起こさせないための意図的な誤訳ではないかとも指摘しています。原文で言うまれな状況というのは何を意味するのか、どういう場合を想定しているのか、大臣お答えいただけますか。
○国務大臣(石原伸晃君) その前に一点お話をさせていただきたいのは、先ほどの質問の中で、私は、込み入っておりますので、挙証責任に関する規定、すなわち第九章二十三条の七項をまず最初に朗読をさせていただきました。その最後のところだけを申させていただきますが、自己の請求の全ての要素を立証する責任を負う、こういうふうに書かれておりますので、私は、一義的には投資家が立証する責任を負うとTPP協定では解しているというお話をさせていただきました。
NAFTAが、先ほど、冒頭お話をさせていただきましたように、どういう規定になって、その個々のケースにおいてどうであるかということは、私、知識を持ち合わせませんのでお答えできないとお答えをさせていただいたところでございます。
そして、二点目の御質問でございますが、いわゆる附属書九のB、これはいわゆる本協定に対しての補助説明でございますけれども、そこに、ただいま委員が御指摘になられましたように、これも先ほど来お話をさせていただいておりますTPP協定のいわゆる九章、投資の附属書九のBの収用において、公共の福祉に係る正当な目的を保護するために立案され、適用される差別的でない規制措置は、極めて限られた場合を除くほか、間接的な収用を構成しない旨定めている。
そして、委員の今の御質問は、その御指摘の、極めて限られた場合。御質問があるというのでその英語のやつも持ってきたんでございますが、レアサーカムスタンスと記載されております。これはどこかほかにもないのかなと探してみたんでございますが、日豪EPA投資章あるいは日中韓投資協定においても同様の文脈で用いられております、このアネックスの九のBに書いてありますレアサーカムスタンシーズということを、訳語の方も確認してまいりましたけれども、極めて限られた場合と訳してきておりますので、多分外務省は同じように踏襲して、この言葉を使って何ら問題はないのではないかと思います。
○山添拓君 いや、質問に答えてください。私の質問は、まれな状況、あるいは極めて限られた場合という言葉でもいいんですけど、それは何を意味するのかということを聞いているんですよ。聞かれたことに答えてください。
○政府参考人(山野内勘二君) この極めて限られた場合とは、規制措置の目的と効果が釣り合わず、恣意的に投資家に損害を与えるような措置など、文字どおり極めて例外的な場合を指すものというふうに解されております。
○山添拓君 そんなこと、しかし協定の中には書かれていないですね。
米韓FTAの中では、その目的や効果に照らして極端に厳しいか不適切である場合など、こういうふうに書かれていますが、TPPではむしろ後退しています。まれな状況に当たれば、仮に公共の福祉に係る正当な目的による規制であったとしても間接収用に当たるというものですから、重大な抜け穴について曖昧な規定でしかないと考えます。
実際に、その抜け穴を通るように規制が違法とされた事例もあります。カナダ政府に対してアメリカの産廃処理業者のSDマイヤーズが仲裁を通告した事件、どのような事件か説明をお願いします。
○政府参考人(山野内勘二君) お答え申し上げます。
米国企業SDマイヤーズがカナダ政府を訴えた事例ですけれども、これは、このSDマイヤーがNAFTAに基づいてカナダ政府を相手取って一九九八年に仲裁に付託したものであると承知しておりますが、カナダ政府によれば、同社が従事しているPCB廃棄物の輸出禁止措置をめぐる紛争でありました。
本事例は二〇〇〇年に仲裁判断が下され、カナダ政府によるPCB廃棄物の輸出禁止措置は環境政策に根拠を置く措置ではなく、カナダ企業を他国企業との競争から保護する意図を有したものと認定した上で、これが内国民待遇及び待遇に関する最低基準に違反するものと判断して、投資家の請求を一部認容したというふうに承知しております。
○山添拓君 内国民待遇義務違反だと、国内投資家と国外投資家とを差別しているといって賠償請求が認められたものです。カナダ政府はこの事件で、SDマイヤーズに対する規制を正当化する根拠として、今説明のあった環境や健康への危険を防止するという目的と国内産業を保護するという目的を主張していたと。国内産業を保護する目的の方が主たる目的ではないか、こういうことで、結果的に外国の投資家を不当に不利に扱うものだ、協定義務違反だというふうにいったわけです。
ですから、公共の福祉、環境だとか健康のための規制だといっても、だから単純に守られるのだ、こういうことではないということはこの事件からも明らかだと思います。大臣、どうですか。
○国務大臣(石原伸晃君) 先ほど来、議論の前提として委員がNAFTAでのケースを挙げられておりますけれども、個々の事例で、今はPCBをめぐる問題であるということは政府委員の説明を聞いていて分かりましたけれども、それとこのTPP協定の問題とをダイレクトに議論して、それがどういうふうに大臣考えられるかといっても、そのことの知識が、今政府委員の答弁程度しか私承知しておりませんので、何とも申すことはできません。
○山添拓君 先例についてきちんと検討しておくことは当然のことだと私は思います。
規制の目的が正当だと言えるかどうか、結局仲裁廷の裁量によるわけです。公共の福祉目的の規制であれば安心ということは決してありません。先進国であるか途上国であるかを問わず、あらゆる事件が仲裁にかかっています。日本政府が訴えられることはないとしているのは根拠のない楽観論にすぎず、ISDSの実際の機能を直視しないものだと思います。
それでは、このような仲裁を行う仲裁機関とはどんなものなのか、これを聞きたいと思います。
ISDSで予定されている機関は、いずれも常設の委員会があるわけではありません。事件ごとに仲裁廷がつくられます。訴える投資家、訴えられた国の指定する仲裁人、両者の合意した第三の仲裁人の三人で構成されます。
資料の四に書かれていますが、有力な十五人の仲裁人は、これまでに公開された投資仲裁の五五%に関与している、係争額四十億ドル以上の事件の七五%に関与していた、仲裁村と言われる多国籍企業をクライアントとする弁護士が仲裁人になっています。あるときは企業側に、あるときは政府側に、あるときは裁判長役にという具合です。アルゼンチンで水道事業の運営権協約の終了が争われた事件では、仲裁人の一人が水道事業会社に投資する銀行の取締役でした。しかし、そのことは明らかにしなかった。こういう事例も報告されています。
仲裁人の独立性をどうやって保つんでしょうか。
○政府参考人(澁谷和久君) TPP協定のISDSにつきまして、この仲裁人の中立性につきまして二点申し上げます。
まず、先生がもう既に御紹介されましたが、三人の仲裁人のうち紛争当事者をまず一名ずつ任命する、第三の仲裁人は原則として紛争当事者の合意で任命すると、このまさに仲裁人の選任プロセスにおける公平性、中立性が第一点でございます。
第二点でございますが、TPP協定では、協定の発効までに、紛争解決章、パネルの構成員に対して行動規範を作ることになっておりますけれども、この行動規範を投資章のISDSの文脈に適合させる形で修正した指針、アプリケーション・オブ・ザ・コード・オブ・コンダクトと言っておりますけれども、これを定めることになっております。仲裁人は、仲裁規則に加えまして、こうした指針に従うということでございます。
○山添拓君 行動規範を作るということになっているんですが、この行動規範の策定に当たって、これから作るんですけど、国会での議論は経るんでしょうか。国民の意思が反映される仕組みはあるんでしょうか。お答えください。
○政府参考人(澁谷和久君) この指針は、国会で御承認いただいた上で締結する協定の範囲内で定められるものでございますので、国会において御審議いただくことは想定しておりません。
○山添拓君 どういう人が仲裁人になるか、その仲裁人がどのように行動すべきか、その定めについて国民が関与して決めるという仕組みにはなっていないわけです。
こういう中で日本政府が訴えられた場合、中立性が担保されるとは言い難い仲裁廷で多大な時間と費用も要します。ICSIDという仲裁機関では、掛かる時間は平均三・六年とされています。訴訟費用は数千万円から数億円だと。
アメリカ法人のケムチュラという会社がカナダ政府を訴え、請求が認められなかった事件があります。仲裁廷の判断によれば、カナダ政府は弁護士費用を幾ら支払ったとされていますか。
○政府参考人(山野内勘二君) 議員御指摘の米国企業ケムチュラ社がカナダ政府を訴えた件でございますけれども、これは、カナダ政府によれば、同社が生産する農薬の登録の停止及び抹消をめぐる係争でありました。本事例は二〇一〇年に仲裁判断が下され、投資家が敗訴しております。仲裁費用の全額に加えて、カナダ政府が負担した経費の半額を投資家側が負担するように命じられました。その結果、カナダ政府は、二百八十九万カナダ・ドルの仲裁手続費用を負担したというふうに承知しています。
○山添拓君 大体二億円だと思います。ISDSで仮に勝ったとしても、政府はこれだけの額を払っている。負けた場合はより深刻です。NAFTAのISDS、カナダ政府は、和解した事案も合わせると、この間に合計二百億円と弁護士費用をアメリカ企業に支払うことが決まっているとされています。これに加えて、自らの国の弁護士費用も支払うわけです。全部税金です。
ISDSは根本的に司法権との矛盾を含むものでもあります。先ほどイーライリリーとカナダ政府の事案でも見たように、TPPのISDSにおいても、国内裁判と仲裁廷とで判断が異なるケース、考えられます。TPPにおいては国内裁判と仲裁とを同時に使うことはできませんが、国内裁判を先にやれば、その後ISDSに行くことは可能です。外国企業が日本政府を相手に投資協定に違反する措置によって損害を被ったとして日本の裁判所に国家賠償請求を行って敗訴が確定し、その後にISDSで判決が不当だとして提訴する、仲裁廷では企業側が逆転勝訴するというケースもあり得るわけです。
この場合にどちらの判断が優先することになるのか。政府は仲裁廷の判断に従って賠償金を払うことになるのかどうか、このことを、大臣、お答えください。
○国務大臣(石原伸晃君) 御質問にお答えする前に、先ほどの行動規範の指針でございますけれども、国会は関与いたしませんが、実はその指針を作る、これは発効後の話ですけれども、今から話をしても始まらないんですけれども、我が国が認めない限りその指針というものはできませんので、そこが明らかになるということと、もちろん関係国があって、これは先の話ですから予断を持って話せないわけですけれども、御要望があれば、政府としては、関係国と調整してその指針並びに行動規範というものを明らかにしていく形で委員の御懸念を払拭するということは十分に可能であると思っております。
そして、今御質問のございましたのは、日本の裁判所と仲裁廷の判決が、判断が違う場合にどのように対応するのかというふうな質問でよろしいでしょうか。
これは、今年の春、委員がまだ議員になる前でございますけれども、予算委員会でも議論になった点でございまして、政府の統一見解というものを出させていただいておりますので、それをちょっと読ませていただきたいと思います。
仲裁廷と裁判所とそれぞれの判断が確定すれば、いずれも有効なものとして成立し、どちらかが優先しどちらかが劣後するというルールはない、どちらの判断が実行されるかについては、当事者が任意に一方を選択することで決まることもあれば、改めて民事執行手続を裁判所に申し立てることで当該裁判所の判断で決するものもある、こういうふうな政府見解を示させていただいております。
○山添拓君 国内裁判と仲裁廷と判断が異なる場合に執行の段階で決まるんだということになりますと、そこで日本の裁判所が最終的に決めるんだということならISDS協定なんて意味がないと思います。
協定の中では、一方の紛争当事者は遅滞なく裁定に従うというふうになっています。支払を拒否するということは考えていないということだと思います。結局、ISDS条項を盛り込んで外国投資家に仲裁廷で争う機会を与えれば、国内裁判でいかなる判決が出ようとも政府は仲裁廷の判断に従い、敗訴すれば……
○委員長(林芳正君) 山添君、時間が参っておりますので、まとめてください。
○山添拓君 はい、まとめます。
賠償金を支払うということにほかならないと思います。
ISDS条項は、国内の裁判所の判断の上に仲裁廷の判断を置くものになる、さらには、実質的には国内の法制度に変更をももたらすものです。こうしたことが起こり得るTPP協定の承認は、国家主権を脅かし、国民の命と暮らしを守るルールを破壊するものであって、許されないことを述べて、発言を終わります。

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