山添 拓 参議院議員・日本共産党

国会報告

2020年・第203臨時国会

生殖補助医療法案について質問、反対討論

要約
  • 参議院法務委員会で、生殖補助医療法案について質問、反対討論。 厚生審も学術会議も20年近く結論の出せなかった行為規制の問題をそのままに、生殖補助医療で生まれた当事者、医療や法律の専門家などの意見や丁寧な議論無しに成立してしまいました。 子どもの権利や生命倫理に関わる重大な問題です。

○山添拓君 日本共産党の山添拓です。
 まず、長沖参考人に伺います。
 本法案は、第三者の卵子、精子により出生した子の親子関係を規定するもので、生殖補助医療そのものの規制の在り方、いわゆる行為規制や出自を知る権利などについては今後二年の検討課題とされております。しかし、本来、これらは一体の問題であって、親子関係のみを先行させるべきではないと私は考えますけれども、御意見を伺えますでしょうか。
○参考人(長沖暁子君) 長沖です。よろしくお願いします。
 私は二〇〇三年から、AIDの当事者、産んだ親、それから提供者、生まれた子供たちの聞き取りの調査をしておりました。その後、生まれた人たちと一緒にAIDで生まれることという本を出しております。
 まず、ちょっと感想を述べさせていただきますと、この法案に出自を知る権利が入っていないということに失望しています。今回の法案で、治療に同意した夫が父と規定されているように、現在の生殖補助医療の基本はインフォームド・コンセント、当事者の同意ということになっています。ところが、生まれてくる子供はまさに当事者なんですけど、同意が取れない当事者なんですね。だからこそ、生殖補助医療に関しては、生まれてくる子供の福祉や権利を最優先しなきゃいけないというのが世界的な合意だと私は思っています。ここまでが最初に申し上げたいことなんですけど。
 で、この法案を読ませていただきますと、前半は通常の夫婦間の体外受精とかに関して規定されているんですけど、三条に突然、他人の配偶子を使った生殖補助医療における親子関係というのが出てきます。ということは、この法律で扱う生殖補助医療というのは何なのか、それから第三者からの配偶子を認めるというのをこの法律で決定するのか、その第三者からの、を関わる生殖技術というのは、配偶子なのか、それとも代理懐胎なのか、そういう問題がどこにも見えない。それから、その対象となるのは夫婦なのか、それとも同性のカップルも認めるのか、それからシングルなのか、それもはっきりしません。生殖補助医療というのはとても幅広いものなので、それを受ける女性の健康、精神的、身体的健康の問題から、今、先ほど述べた問題のように、様々な検討をしなきゃいけない課題があると思っています。
 日本で、生殖医療において何を認めて何を認めないのか、その理由は何なのかという、そういう概念がまず重要で、その上で法律が成立するんだと私は思っています。理念のないまま精子提供や卵子提供を認めてしまうと、商業的な、先ほども出ていましたけど、商業的な提供というものに対する歯止めも利かなくなりますし、懸念されている優生思想の介入も許してしまうんだと思います。
 もう一つ、この法律の中で提供者のことが何も書かれていないんですけれども、例えば、精子提供者が提供した、を受けた人や子供から認知を求められた場合にどう対応できるのか、それから、卵子提供をした提供者が健康被害を受けたときにそれをどうやって補償するのか、そういうことも書かれていません。
 また、もう一つ、理念が決まった上で、それを実行するためには様々なシステムが必要です。例えば、出自を知る権利を保障するためには、治療を受けた人、提供者、生まれてきた子供の情報の登録、管理、それで追跡のシステムも必要になる。そういうようなシステムまで含めて確立することができて初めて健全な生殖補助医療が実施できるし、制御できるのではないかと考えています。
○山添拓君 ありがとうございます。
 理念が定まってこそその必要なシステムが定まり、それによってこそ健全な生殖補助医療の実施と制御ができるというお話でありました。
 法務省に伺いますが、法制審の親子法制部会は二〇〇三年の七月、精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療により出生した子の親子関係に関する民法の特例に関する要綱中間試案を発表しています。当時の議論は、いわゆる行為規制の在り方の検討と並行して行われて、法律により行為規制がされることが前提とされていました。その理由は何でしょうか。
○政府参考人(小出邦夫君) お答えいたします。
 御指摘の法制審議会における検討が開始された経緯でございますけれども、まず、平成十二年の十二月に、厚生科学審議会先端医療技術評価部会の生殖補助医療技術に関する専門委員会におきまして、精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療のあり方についての報告書が取りまとめられ、生殖補助医療の行為規制の整備の検討が行われることになったと承知しております。
 このような第三者提供の精子、卵子等を用いて生殖補助医療がされた結果生まれた子は医療を受けた夫婦の一人又はその双方と生物学上の親子関係が存在しないこととなりますため、報告書におきましては、このような医療行為を一定の条件の下で認めるとともに、医療を実施するための条件整備の一環として、生物学上の親子関係がない場合であっても法律上の親子関係を確定させる立法措置が必要である旨が記載されたところでございます。
 そこで、厚生科学審議会生殖補助医療部会における行為規制の検討と並行いたしまして、また行為規制の内容を前提としつつ、平成十三年四月から法制審議会生殖補助医療関連親子法制部会において、生殖補助医療により生まれた子の親子法制について検討が開始されたところでございます。
○山添拓君 行為規制が前提とされてきたということでありました。
 法務省に確認ですけれども、親子関係が問題となった近時の最高裁判例でも、医療法制と親子法制はこれ両面からの検討が必要だとされてきたのではなかったでしょうか。
○政府参考人(小出邦夫君) 委員御指摘のとおりだと認識しております。
○山添拓君 現在、法制審議会の親子法制部会が開かれておりますが、例えば、そこでは、母子関係について、行為規制の立法の見通しが立たない現状を前提に、親子法制を規律することについては慎重な検討を要するとされています。どのような生殖補助医療がいかなる要件の下に認められるかが定まらないのに、親子関係を先に定めるというのは不可能であり、適切でもないということだと思うんです。
 では、行為規制についての検討が進まなかったのはなぜなのか。厚生科学審議会の生殖補助医療部会は二〇〇三年四月二十八日、精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療制度の整備に関する報告書を発表しています。その後、これが法制化に至らなかった理由は何でしょうか。
○政府参考人(大坪寛子君) お答え申し上げます。
 御指摘の生殖医療補助でございますけれど、法務省から今回答がありましたように、さきの検討会を踏まえまして、平成十三年から十五年にかけまして厚生科学審議会生殖補助医療部会で検討し、一定の取りまとめを行っております。
 その後ですが、日本人夫婦の代理懐胎による子の出生の受理、こういったことに関する裁判、そういった裁判の判決等がございまして、そういった動向を踏まえまして、厚生労働大臣と法務大臣の方から日本学術会議に対して審議を依頼したという経緯がございます。
 平成二十年に日本学術会議から報告書が取りまとめられました。その報告書の中には、国民の代表機関である国会が作る法律によるべきという御意見をいただいたというところでございます。
○山添拓君 家族観や生命倫理に深く影響する問題であるので、政府が定めるのが適切かどうかという議論があったと、こういうことですね。
○政府参考人(大坪寛子君) はい、御指摘のとおりでございます。
○山添拓君 国会が作る法律にするべきだとされたわけですが、ところが、その後は主として与党内の議論のみで、国会での議論というのは部分的なものです。ましてや国民的な議論とその合意があるとも言い難い状況ではないかと考えます。
 法案の附則第三条三項には、法案成立後に行う検討の結果、親子関係について更なる特例を設けることも含めて検討し、法制化する旨が記されております。
 発議者に伺いますが、本法案による親子関係の特例以外にどのような場合を想定したものでしょうか。
○委員以外の議員(古川俊治君) 一つがいわゆる代理懐胎というものでございまして、出産する親と、それから生まれてくる子の、特に女性、女性の卵巣は大丈夫なんだけれども子宮がよくないという方ですね、その場合に生まれた子の親子関係、これが一つでございまして。また、夫の同意がない場合、これ十条には、夫が同意があり、そこで夫以外の男性の精子を用いた生殖補助医療により生まれた子については、夫は、民法七百七十四条の規定にかかわらず、嫡出否認をできないと書いてあります。その場合、夫の同意がない場合に、その子の親子関係あるいは精子提供者の地位はどうなるのか、この問題も同様にこの規定の中に含まれていると考えております。
○山添拓君 今、とりわけ代理懐胎のことを最初に答弁されましたが、これは医療の範囲にとどまらず、倫理的、法的、社会的に重大な問題を含むものだと思います。二十年掛かって議論が進まないものを僅か二年と期限を切って結論を急がせるということになるなら、これは乱暴だと指摘しなければなりません。
 長沖参考人に伺いますが、現在、生殖補助医療の下で既に深刻となっているのが、生まれた子の出自を知る権利をめぐる問題であります。参考人は生殖補助医療で生まれた人などからのインタビューを行い、研究を進めてこられたと伺います。どのような点が問題となってきたのか、いかなる法的整備が求められているかについて、御意見を伺います。
○参考人(長沖暁子君) AIDで生まれた方の私はお話をずっと伺ってきましたけれども、その方たちの絶望というのは想像を超えたものがあると感じてきました。例えば、自分の誕生日というのがつらい、自分の誕生日になるとそのことを思い出すからつらいとおっしゃる話を聞いたときには、私自身も驚きました。
 今現状では、AIDは秘密にしておかなきゃいけないということだったので、多くの人は子供の頃から伝えられていません。なので、AIDで生まれた人が自分がAIDで生まれたという事実を知るきっかけというのは、両親の離婚又は親の病気や死という、そういうつらい場面で知ることが多いのです。なので、家族の危機でもう一つの自分の危機を抱えるという二重の葛藤を抱えることになります。そのために、親が長いこと自分に対して隠していたということに怒り、だまされていたと感じています。その結果、自分のアイデンティティーや人生そのものが喪失してしまったと感じたり、自分の半分が空白になってしまったと感じて、その後の人生を大きく狂わせてしまう人たちもいます。
 あえて子供に知らせる必要はない、平和に暮らしているのにあえて子供に知らせる必要はないと言う人もいるんですけれども、多くの人が、知る前から自分の家族に、理由は分からないけれども緊張感や違和感があったというふうにおっしゃっています。で、AIDだと知って、ああ、それだったんだと後から分かるということです。
 出自を知る権利のことが話題になっていますが、ある人は、なぜ精子提供者を知りたいかというと、自分が精子というものから生まれてきたんではなくて、そこに人がいたということを確認したいと言っています。
 この発言というのは、提供者ではなくて、配偶子というものとしてそこだけにフォーカスを当ててきた生殖補助医療への根源的な問いだと思うんですね。この空白を埋めるには、その人としての提供者を知るということしかないのだと思っています。
 私が出会った、その大人になってからAIDで生まれたということを知った方々の多くは、精子提供や卵子提供に反対しています。このまま生殖補助医療を続けると自分と同じ苦しみを味わう人が増えてしまう。
 で、親が子供に事実、事実を伝えないことというのも問題としてあるわけですけれども、これは、自分たちがやった選択に自信が持てないからであり、この親たちへのサポートも当然必要になってきます。
 厚生科学審議会で五年も掛けて審議されて、子供の出自を知る権利というのは子の福祉の観点から認めるという結論が出てからもう二十年近くたつんですね。いまだに出自を知る権利に関して議論がなされてこなかったっておっしゃる発言をつい最近も聞いたんですけれども、そういうことを発言なさることが信じられません。
 海外では、一九八四年のスウェーデンを始めとして、二〇〇〇年代前半までにヨーロッパやオセアニアなどの国々では出自を知る権利が認められてきました。その根拠とされているのは子どもの権利条約なんですね。子どもの権利条約の七条と八条がその根拠となっています。子どもの権利条約は一九九〇年に発効されて、日本も九四年に批准しているはずです。
 生殖補助医療というのは、親とは別の一人の人間を誕生させる行為になります。しかし、最初にも申し上げましたように、その生まれてきた当事者である子供というのはその治療の同意を取れない子供、存在なわけですね。だからこそ、社会や大人は生まれてくる子供の、子供が健やかに生きるための権利というのを守らなきゃいけないと私は思っています。子供の権利と親の権利というのをてんびんに掛けるのではなくて、生まれた子供も親も幸せになるためのシステムや法というものを是非つくっていただきたいと思っています。
 今日はありがとうございました。
○山添拓君 今の御発言は重く受け止めなければならないと思います。
 私も当事者の方からお話を伺いましたが、成人後突然その事実を知って、アイデンティティーが崩れて自分自身を肯定できない状態に陥ったと、これはもう想像を絶する事態だと思うんです。
 発議者に伺いますが、出自を知る権利を保障するべきか否か、両論あるとすればその理由について、例えば与党内ではどういう意見があったんでしょうか。
○委員以外の議員(古川俊治君) ありがとうございます。
 一つは、今、長沖参考人からもいただきましたように、できる限り子供の権利というものを認めておこうということが一つございます。
 一方で、先ほども申し上げましたが、この出自を知る権利を認めた場合に、まあイギリスの例もございますけれども、やはり今、日本でも現にそういうインフォームド・コンセントを行ったために配偶子の提供者がずうっと減ってしまうと、そして必要な治療を受ける方が受けられない状況になると。イギリスではこういうことをやった結果、海外に行って治療を受けるという例が増えたというふうに聞いております。
 その両面をどう考えていくかという意味で、これは生命倫理に関わる意味で自民党内でも相当議員の間でまとまりがなかったという状況でございまして、一つ申し上げれば、二十年放っておかれた議論をこの二年間のうちにできるところはせめてやると。少なくとも公的に情報を管理するシステムをつくることは出自を知る権利に資すると考えておりますので、そういったところをしっかり議論し、必要があれば、先ほど塩村委員からもお話ししていただきましたが、複数回に分けるという検討も可能であると考えております。
○山添拓君 その検討は不可避だと思いますが、重要な論点だと言いながら認めない可能性もはらんでいるということだと思うんです。
 二〇〇三年の厚生審議会の報告書では、確かに、そのドナーの提供、ドナーが減ることについて指摘をしているわけですが、しかし、減るんだとしても子の福祉の観点からはこうした情報の開示はやむを得ないと指摘をしていました。そこから比べても大幅な後退だと言わなければならないと思うんです。知る権利を認めていくというのは、もうこれは避けられない問題だと思います。
 厚労省に伺いますが、この法案では、生殖補助医療の提供を受けた者、生まれた子に関する情報の保存、管理、開示等に関する制度の在り方について今後の検討課題としているわけですが、検討が生まれるまでの間に生まれる子について当面提供者に関する情報を保存するような措置を講じていくのでしょうか。
○政府参考人(大坪寛子君) お答え申し上げます。
 今の御指摘の点につきましては、例えば日本産婦人科学会などでは会告の中で、それぞれ事例、尊重するようにということで、管理の在り方を規定をしております。それも全てではなくて、様々会告出ております中で、提供精子を用いた人工授精については、精子の提供者の匿名としつつも、その実施医師は提供者の記録を保存すると、そういうことで会告を定めております。
 その心はといいますと、その出自の権利ということではなくて、出生児の個数を十人までと定めているところがございますので、その観点から医師はそれを知っていなければならないと、そういう規定になっております。
 いずれにいたしましても、この問題点は非常に倫理的にも難しい問題でございまして、本法案の附則において国会での御議論を待ちたいというふうに考えております。
○山添拓君 時間ですのでもう終わらなければなりませんけれども、今、学会の会告の話がありましたが、二十年前の厚生審議会の検討も、会告に反する医師が現れて生殖補助医療が行われたと、そういう例が出発点だったわけですね。ですから、会告があるから大丈夫ということにはならないと思います。
 そして、二〇〇三年の報告書は、公的な管理運営機関による八十年の保存を提案していました。厚労省は保存すべきだと、これは直ちに通知をするべきだと思いますし、本当はもっと検討の時間が、議論の時間が必要だということを重ねて申し上げまして、私の質問を終わります。
 ありがとうございました。

○山添拓君 日本共産党を代表し、生殖補助医療の提供及びこれにより出生した子の親子関係に関する民法の特例に関する法律案に反対の討論を行います。
 反対理由の第一は、いかなる生殖補助医療をどのように規制するか、いわゆる行為規制の在り方が、全て今後二年の検討に先送りされていることです。
 第三者から卵子や精子の提供を受ける非配偶者間人工授精、AIDは、代理懐胎を含め、医療上の問題や倫理的、法的課題など、多くの問題が指摘されています。商業的な濫用の危険、遺伝子の選別による優生思想の懸念、リプロダクティブヘルス・ライツの保障の要請など生殖補助医療そのものの適否が問われており、親子関係の法的整理は、これらを踏まえた行為規制と一体に行うべきです。
 法制審議会親子法制部会も、行為規制の立法の見通しが立たない下で親子法制を規律することについて慎重な検討を要するとしており、親子法制のみを先行して規定することは本来不可能であり、適切でもありません。
 反対理由の第二は、生まれてくる子の出自を知る権利を保障するための制度の検討も先送りにされていることです。
 ある日突然出自の秘密を知り、アイデンティティーが崩れ、最も信頼していた親に裏切られていたと感じ、信頼関係が崩れ苦しんでいる当事者が現に存在します。提供者の遺伝的情報が管理されず、開示する仕組みもない下で、遺伝的疾患や近親婚の可能性も生じています。
 質疑を通じて、今後の検討次第で、出自を知る権利自体を認めない可能性も明らかになりました。法制審議会の報告書が、情報開示の制度化によって精子、卵子の提供者が減少するとしても子の福祉の観点からやむを得ないとし、必要な情報の八十年保存を提案していたことからすれば大幅な後退です。自分は精子というものから生まれたのではなく、そこに人がいたことを確認したいという当事者の思いに耳を傾けるべきです。
 反対理由の第三は、本法案十条は夫の同意を前提としていますが、同意の有無をめぐる裁判例が現に存在するほか、出生した子と精子提供者との間の認知の問題についての規定もなく、父子関係が早期に確定するとは限らないことです。
 また、現在、法制審議会で嫡出推定制度自体の見直しが進められており、現時点で本法案による親子関係の規律を急ぐ理由は乏しいというべきです。
 国民的合意があるとは言えない中、本来、生殖補助医療で生まれた当事者、医療や法律の専門家など幅広い人の意見を丁寧に聞き、十分な検討を行うべきです。短時間の審議で今国会における成立ありきで急ぐべきではないことを強調し、討論とします。