山添 拓 参議院議員 日本共産党

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2023年5月10日

憲法審査会で「緊急集会」をテーマに意見表明

今週も憲法審査会が開かれ、「緊急集会」をテーマに意見表明しました。このテーマでの意見交換は3回目です。実は、今日は参考人質疑を行う希望が複数の会派から示されていましたが、与党側で参考人を提案できず、代わりに設定されたものです。参考人の意見を聞いた上での意見表明ならともかく、3回目をあえて行うことは必要なかったのですが、とにかく開催したい改憲勢力の意向を反映しています。

私の意見陳述原稿をご紹介します。

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 4月12日の当審査会で、参議院の緊急集会が憲法に規定されるに至った経過について、法制局に質問し、次のような答弁を受けました。

 すなわち、日本政府側は当初、緊急事態において法律又は予算に代わる閣令の制定を可能とする案を提案していましたが、これは明治憲法の緊急勅令あるいは緊急財政処分が念頭に置かれていました。総司令部との交渉を経て、緊急集会の規定が設けられることになった理由について、当時の政府は、「民主政治を徹底させて国民の権利を十分擁護するために行政権の自由判断の余地をできるだけ少なくするように考えた」と説明しており、これは権力分立を維持し、それにより国民の権利保障を全うする、立憲主義を貫くことを考慮したものでした。

 天皇主権の明治憲法と国民主権の日本国憲法とでは、いわゆる緊急事態への対応はおのずから異なります。憲法制定議会で金森大臣が述べたように、政府の一存で行うような処置は極力防止しなければならず、国会制度の趣旨を徹底して実行するため、緊急の必要が生じた際には臨時国会を召集して対応し、衆議院の解散後は参議院の緊急集会で対応することとされたものです。

 加えて日本国憲法は、戦争を放棄し軍隊を持たないとする9条を掲げました。成文憲法をもつドイツ、フランス、イタリアなどでは、主として戦時の緊急対応のために緊急権を定めています。明治憲法の非常大権や戒厳令も戦時や国家事変を対象としていました。一方、二度と戦争をしないと宣言した日本国憲法の下では、戦時対応に名を借りた緊急事態条項は必要なくなったという点も想起されるべきです。

 したがって日本国憲法は緊急事態条項をあえて定めず、権力分立による権利保障を貫く在り方を追及した結果、国際的にもユニークな緊急集会という規定に結実したことを重ねて強調するものです。

 ところがこの間の当審査会では、「フルセットの緊急事態条項を設けるべき」「憲法に緊急政令の規定を設けるべき」など、日本国憲法の制定に至る議論の経過と結果をおよそ無視した意見が散見されます。看過できません。

 自民党の2012年日本国憲法改正草案や2018年改憲条文イメージ・たたき台素案、また今般維新の会や国民民主党などが発表した条文案は、いずれも緊急事態に議員任期を延長する特例を盛り込んでいます。

 法制局によれば、明治憲法下で唯一衆議院任期が延長された例は1941年、対米開戦に向かう情勢下でのものでした。「今日のような緊迫した内外情勢下に、短期間でも国民を選挙に没頭させることは、国政について不必要にとかく議論を誘発し、不必要な摩擦競争を生ぜしめて、内外外交上はなはだ面白くない結果を招くおそれがある」などとされたものです。1年後の1942年、戦時下に総選挙を行ったのは、「議会の刷新を期し、政治力の結集を図ることがむしろ戦争遂行のため緊要であると考え、戦争のまっただ中であえて総選挙を断行した」とされます。

 議員任期の延長もその後の選挙も、世論を封じ、戦争を押し進めようという内閣と多数党の思惑に利用され、侵略戦争をいっそう深刻化し、内外でおびただしい犠牲を招いたという厳然たる事実があります。日本国憲法が議員任期の延長を定めず、衆議院の総選挙の間は参議院の緊急集会により対応することとしたのは、この痛苦の歴史を踏まえたものにほかなりません。

 5月3日、憲法施行76周年の憲法記念日に東京・有明で行われた憲法集会にはコロナ禍後で最多の2万5000人が集まりました。北海道から沖縄まで、各地で憲法を守りいかそうと声を上げるとりくみが行われました。

 日経新聞とテレビ東京の世論調査では、憲法への緊急事態条項創設に「賛成」41%に対し「反対」が48%と上回っています。

 共同通信の世論調査では、改憲の機運が「高まっている」「どちらかといえば高まっている」計28%に対し、「どちらかといえば高まっていない」「高まっていない」が計71%と多数を占めました。

 毎日新聞の世論調査では、岸田首相在任中の改憲について「賛成」は35%、「反対」が47%と上回りました。1年前と賛否が逆転しています。

 コロナ危機やロシアのウクライナ侵略に乗じて、緊急時対応のために改憲が必要とあおる議論が重ねられてきました。しかしこうした危機を経てなお、改憲は政治の優先課題とはなっていません。いま求められているのは憲法を徹底的にいかす政治であり、乱暴かつ前のめりに改憲論議を重ねることではないことを強調し、意見とします。

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