山添 拓 参議院議員・日本共産党

国会報告

2017年・第193通常国会

共謀罪法案 参考人質疑  福田充氏、山下幸夫氏、村井敏邦氏

○山添拓君 日本共産党の山添拓です。

参考人の皆さん、今日は大変ありがとうございます。

TOC条約の立法ガイドを作成されましたニコス・パッサス氏は、今月の初めにもロンドンの中心部でテロがあったことなどを指して、英国は長年TOC条約のメンバーだが、条約を締結するだけではテロの防止にはならないと、こう述べておられます。

こうした意見についてどうお考えになるか、三人の皆さんにそれぞれお答えいただければと思います。福田参考人からお願いします。

○参考人(福田充君) テロ等準備罪が成立すると全てテロ対策について万能に機能すると考えるのは間違いだと思います。

非常に有効に機能する側面はありますけれども、しかしながら、これは、テロ等準備罪でカバーできる幅広い二百七十七の項目を規定するということと、それは空間軸のような把握になりますけれども、それを実行段階より以前の段階で捕捉することができるようにする、これ時間軸の問題だと思いますけれども、その両者をカバーすることによってテロ対策を次の段階に進めるという一つの契機になっていると思いますが、しかしながら、この法制度をより有効に運用していくためには、実際の日本に今存在しております情報機関若しくはインテリジェンス機関が更にテロ対策のためにより有効な手段を用いてインテリジェンス活動を、そしてかつ日本の合法的な範囲内で、日本国憲法の範囲内で、そして日本の法制度の範囲内でインテリジェンス活動を実施する、そしてそれを強化するということが伴わなければ、このテロ等準備罪も有効にもう機能しない可能性もあるかとは思います。

以上でございます。

○参考人(山下幸夫君) 御質問は、TOC条約を締結したらということですけれども、百八十七か国が既に締結はしておりますけれども、アメリカ、フランス、そしてイギリス、そういう主要な国においてもテロが起きております。

この条約を締結したからとか、それに対する法律ができているからとか、とりわけイギリスはコンスピラシー、共謀罪の発祥の地でありますけれども、そういうものがあるからテロを防げるとかそういうことはございません。基本的には、きちっとした事前の情報をどれだけキャッチし、対応できるかという方が大事でありますし、そういう条約に入っているからとか法律ができたから、それでテロが防げる、そんなことはないと思います。

先ほど村井参考人言われたように、まずテロを根絶するために努力をする必要がありまして、そういう法律や条約というのはあくまでも、それがあるから何かそれで解決をするというものではないと考えております。

○参考人(村井敏邦君) 私もそうで、条約で、それだけでは駄目で、インテリジェンス活動等をすると、かえってその方が怖いですね。そういうので情報を収集する、そしてテロと目される人を事前に何とかしようというのでは、実際それは有効には機能しないというふうに言われてきておりますが、仮にそれが有効に機能したとしても、それは我々が望む社会ではないだろうというふうに思います。

先ほど来言っているように、やはりテロを起こすのを防止するということであって、テロを起こす気持ちをなくすためには、やはり今問題になっているISなどですと、貧しい状態をなくしていくということによって、ISに加入する人たちも少なくなるだろうし、ISの被害を受ける人たちも少なくなるという形になるので、これこそ国際協調をしてやらなければならないことであって、それでなければ、どんな厳しい条約を作ろうとも根絶は難しいというふうに思います。

○山添拓君 ありがとうございます。

村井参考人に伺います。

現在の組織犯罪処罰法は、組織性を根拠に刑を加重するものとなっています。組織的に犯罪が行われた場合には目的実現の確実性が高いと、そこで重大な被害や莫大な不正の利益を生む蓋然性も高いから刑を加重するんだと説明されています。一方、共謀罪の法案では、同じような理屈で、現在は罪にならない行為、計画と準備行為の段階を罪にするんだと言っています。

その刑を重くする理由と処罰する理由とを同じく組織性を根拠に説明していることについてどのようにお考えでしょうか。

○参考人(村井敏邦君) 少し、矛盾ではないですけれども、違うことだろうというふうに思いますね。組織的に行われることについては、被害が大きくなるから、その被害の大きさということを考えて刑を重くするというのは従来から考えられてきたことであるわけです。しかし、だから計画準備段階、要するに実行行為がなくてもいいんだというのは、組織性とはそれ自体としてはつながってこないことだと思います。

この組織性を付け加えたのは制限する意味だというように言われてきておりますけれども、組織的犯罪対策法の中でも既に、組織的な犯罪集団という言葉は使われてこなかったけれども、同様の議論がされてきているわけですけれども、その中で行われてきている組織性というのは、基本的に計画とか準備とかという事前のを取り締まるという形のものではない議論をしてきたわけで、だから、計画とか準備とかに組織性がどういう形でかぶってくるのか、もうこの辺もよく分からぬのですが、私は、違う問題だというふうに言わざるを得ないだろうというふうに思います。

○山添拓君 同様の観点の質問なんですが、政府は、共謀罪を処罰する必要性については、組織的犯罪集団が計画し実行準備行為を行ったこと、これを総体として見ると危険だから処罰に値するんだと、こういう説明をしています。やはりここでは組織性に重点が置かれているわけですが、一方で、共謀罪は実行の着手前の行為を処罰するものであって固有の保護法益はないのだと、専ら計画をした犯罪によって保護される法益の保護に資するものだと、こういう答弁もしています。

この保護法益と処罰の必要性についてのこうした説明のされ方についてどのようにお考えでしょうか。

○参考人(村井敏邦君) 先ほども言いましたけれども、処罰を早期化する、要するに、行為がなくても、その前の段階で危険があれば処罰していこうという一つの傾向に沿った考え方だというふうに思いますけれども、この危険が具体的でなければ処罰しないというのが基本的な考え方です。ところが、準備とか計画というのは準備的行為を要求するけれども、そこまでの危険性はなくていいんだというふうに言われてきている。したがって、危険性も基準にはならない。法益侵害の危険性ということがせいぜい処罰するための条件なんですね、最低限の条件。

ところが、その危険性さえなくても処罰していくというのは、これは先ほど来言っているように、刑法の基本的な考え方とは違うわけですね。しかも、今回の場合に問題なのは、これまでも共謀罪はあったじゃないかというふうに言われる。確かに、個別的にはありました。個別的にはありましたけれども、それはあくまでも個別的犯罪で、数少ないものであったんですが、二百七十七というのは刑法の全条文よりか多い数の共謀罪が設けられる。しかも、数え方によっては二百七十七で、過ぎないわけですね、超えているというようなものを設けるというのは、もう私なぞの想像を絶する状態でして、それをそのまま認めるわけにはいかないということになります。

○山添拓君 ありがとうございます。

先ほど、村井参考人からもお話があったんですが、法案に言う準備行為について、これはオーバートアクトとは違うのだと政府は言っています。オーバートアクトは意思の発現として行われる明らかな外的行為だと、例えば計画の後にまたその計画を話し合うような場合もこれ含まれるわけですが、法案に言う準備行為ではこれは当たらないんだと言っています。そこで、共謀罪法案の実行準備行為の方がアメリカの法律よりも厳格な要件だとして規定しているんだと、こういう答弁をしています。いわゆるオーバートアクトよりもむしろ厳しいんだと、こういう説明をされているわけですが、この点についてはどのようにお考えでしょうか。

○参考人(村井敏邦君) もしそうならば、準備罪というのは確かにあります。通貨偽造罪における準備罪というのはあるんですが、これは予備罪と考えられているんですね。要するに、その実行行為をする危険性が高いものについては実行行為前に準備罪として処罰すると、予備罪です。予備罪という形ならば理解できます。しかし、予備ではないということを言っている。予備までの危険性を必要としないんだということを言いながら、オーバートアクトではないからより慎重なんだというのはちょっと通らない議論だろうというふうに思います。

○山添拓君 ありがとうございます。

また改めて村井参考人に伺うんですが、TOC条約はテロ対策ではないという意見が様々あり、また条約締結のために共謀罪を設ける必要もないのだと、こういう意見が内外で上げられておりますが、それでも政府が共謀罪法案を通そうとすると。その背後にある狙いといいますか目的、これは何だと村井参考人の方はお考えでしょうか。

○参考人(村井敏邦君) 政府に聞かなきゃ分からないので私が答える筋合いのものであるかどうか分かりませんけれども、特定秘密保護法については、小笠原みどりさんがインタビューした中でエドワード・スノーデンが言っているのは、これはアメリカの先ほど来出ているインテリジェンスからの示唆で作られたものであるというふうに公然と言っておるわけですが、これを否定するのかどうかというのは分かりませんけれども、そういう背景がある。この共謀罪については確証はありません。しかし、やはり英米の制度をそのまま入れようというのが基本なわけですね。で、批判があったので計画罪というような形にしたということになるので、アメリカとの関係というのは非常に重要な要素であろうかというふうに思います。

それから、基本的に何が問題なのかというと、先ほど国際協調という言葉が出てきましたけれども、共謀罪を制定しないことにはそれについての国際協力が得られない、情報が得られない、あるいは情報を提供できないというようなことが背景にあるのかなというふうに思います。この辺は憶測です。憶測ですから実際のところは分かりませんけれども、確かに国際的に認められなければできないというようなのが背景にあるんだろうというふうには思います。

○山添拓君 政府が率直に狙いを語ってくれればそれはそれで分かりやすいわけですが。

最後に山下参考人に伺います。

日弁連や各地の単位弁護士会、共謀罪反対を掲げていろいろ運動にも取り組まれています。市民の世論にそうした運動がどのように広がり、またその中で変化があるとこの間お感じだろうかということをお聞かせください。

○参考人(山下幸夫君) やはり、日弁連も含め弁護士会は、二〇〇三年から二〇〇六年にかけて国会に出されたかつての三度廃案になった法案のときから反対運動をし、反対の声明を上げてまいりました。今回も全ての弁護士会が反対の声明を上げているところでありまして、少なからずそれはやっぱり市民に対してこの法案が危険であるということを伝える役割を果たしてきている。この間、ようやくといいますか、だんだん市民の間でもこの法案は大変危険なものであるという、そういう考えが広まってきているのは、やっぱりそういう弁護士会の活動も少しそれなりにそのお役に立てているのではないかというふうに考えているところであります。

○山添拓君 ありがとうございます。

福田参考人からは、安全、安心と自由、人権、これは対立し得るものだと、バランスが大事なのだというお話があり、そのための合意形成が必要だという御指摘がありました。この国会の中でも、また内外から、合意に至るような状況にはないということがあろうかと思います。この共謀罪の法案、徹底審議を尽くしていくべきことを引き続き強調して、私からの質問を終わらせていただきたいと思います。

ありがとうございます。

 

○委員長(秋野公造君) 組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律等の一部を改正する法律案を議題とし、参考人から御意見を伺います。

この際、参考人の方々に一言御挨拶を申し上げます。

本日は、御多用のところ本委員会に御出席をいただきまして、誠にありがとうございます。

参考人の皆様方から忌憚のない御意見を賜り、今後の審査の参考にいたしたいと存じますので、どうぞよろしくお願いを申し上げます。

議事の進め方について申し上げます。

まず、福田参考人、山下参考人、村井参考人の順に、お一人十五分程度で御意見をお述べいただきまして、その後、各委員からの質疑にお答えいただきたいと存じます。

なお、意見の陳述、質疑及び答弁のいずれも着席のままで結構でございますが、御発言の際は、その都度、委員長の許可を得ることとなっております。また、各委員の質疑時間が限られておりますので、御答弁は簡潔にお願いいたします。

それでは、福田参考人からお願いいたします。福田参考人。

○参考人(福田充君) 日本大学危機管理学部の福田と申します。本日はよろしくお願いいたします。

この度、テロ等準備罪を導入する組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律等の一部を改正する法律案に対し、賛成を表明いたします。

現在、ほぼ毎日のように、世界のどこかで貴重な一般市民の命が奪われるテロ事件が発生しています。つい先日も、イギリスのマンチェスターでは、ライブ会場で八歳の女子児童が死亡する爆弾テロが発生しました。シリアやイラク、アフガニスタンといった中東や、ソマリア、ナイジェリアといったアフリカだけでなく、テロリズムは欧米各国でも繰り返し発生し、アジアにも拡大しつつあります。イスラム過激派によるグローバルジハード戦略によりテロリズムは国際化し、国際テロの時代が到来しました。

一般市民の命を無差別に奪う無差別テロを根絶するためには、世界各国が協調して国際的なテロ対策を実施することが求められています。テロ対策はもはや一国だけでできる時代ではありません。戦争や紛争など安全保障の問題だけでなく、テロリズムに対する危機管理にも国際的な協調路線が求められており、テロ対策のためのグローバルネットワークに参加することが日本にも求められています。国際社会の中で日本がその責任をどう果たすかが、大きな期待とともに注目されています。

しかしながら、我が国日本がその国際社会における責任を十分果たしているとは言えない状況であります。これまで日本では、テロリズムの研究や教育、テロ対策の実施は様々な制約により十分になされてきませんでした。

私自身がテロ対策の研究を始めたのは一九九五年のオウム真理教による地下鉄サリン事件がきっかけでありました。その二か月前には阪神・淡路大震災が発生し、日本の災害対策、危機管理体制の不備が指摘され始めたのがこの九五年であります。このとき以来、私自身、災害対策やテロ対策、戦争、紛争などの安全保障を総合してオールハザードアプローチで研究する危機管理学の研究を始めました。それから二十二年がたちます。

オウム真理教による地下鉄サリン事件は、世界で初めて大都市における公共交通機関が狙われた無差別化学兵器テロでありました。九五年当時の日本では、まだテロリズムという概念が十分に理解されず、メディア報道においても議会の議論においても、テロリズムという枠組みで議論、検討されることは当時ありませんでした。それと同時に、あれだけの事件の兆候がありながら、なぜ地下鉄サリン事件を未然に防止できなかったのか、日本のインテリジェンス活動やテロ対策の限界が露呈いたしました。

その後、九八年に発足した警察政策学会テロ対策研究部会に参画し、コロンビア大学戦争と平和研究所においてテロリズムとインテリジェンスについて研究するなど、私自身、二十二年間、テロ対策について向き合ってきました。

今、日本は、テロ対策におけるグローバルスタンダードを理解し、国内に整備するための産みの苦しみの過程にあると思います。第二次安倍政権が整備してきました国家安全保障会議設置法、特定秘密保護法、平和安全法制、そしてこのテロ等準備罪は、世界規模で国際協調しながら世界のテロ対策、安全保障を確立するために日本も協力する姿勢を示す一貫した積極的平和主義の制度化であったと評価できます。テロ等準備罪もグローバルな視点で考えなくてはなりません。

テロ等準備罪が求められる理由又はその目的には三つの論点があると思います。一つ目は国際組織犯罪防止条約、TOC条約の締結、二つ目は二〇二〇年の東京オリンピック・パラリンピックに向けたテロ対策の強化、三つ目はテロ事件を未然に防ぐためのリスクマネジメントの確立です。この三つの論点は時間が切迫した喫緊の課題であり、この三つの課題を同時に解決するための方策がこのテロ等準備罪だと考えられます。

一つ目の論点です。

百八十七の国と地域が既に締結している国際組織犯罪防止条約は、現在の国際的なテロ対策の取組としても極めて重要な枠組みだと考えます。国際的にも、テロ対策としてテロ組織の資金源を絶ち、テロ組織の活動を包括的に防止し、テロ事件の捜査や情報共有を促進するために、テロ対策にとっても重要な国際条約であります。

なぜこのような国際組織犯罪防止条約が国際テロ対策として有用とされているかといいますと、国際社会においても、一般犯罪とテロリズムの線引きは極めて難しく、犯罪組織とテロ組織の線引きは非常に困難な状況にあるからです。

二〇一四年の国連安保理決議第二千百九十五号においても指摘されているとおり、テロ組織と犯罪組織は部分的に融合し、連携し合っています。マネーロンダリングなどの諸活動において、犯罪組織やテロ組織自体が国際的にネットワーク化され、連携している状況があります。

二〇一五年の国連事務総長報告書においても、武器の密輸、人身取引、天然資源の不法取引、マネーロンダリングなど組織犯罪の資金がテロ組織に流れている事例が具体的に指摘されております。日本としてこの国際組織犯罪防止条約を締結することで、テロリズムに必要な資金や資源を供給するための周辺的な組織犯罪を防止することが可能となり、テロリズムの根本を絶つことができます。既に百八十七の国と地域が締結している国際組織犯罪防止条約を締結することで、テロ対策においても諸外国と情報共有や捜査共助が促進され、テロリズムの防止のための国際協力が強化されると信じます。

二点目の論点です。

テロ等準備罪には非常に重要なテロ対策の施策が網羅されていると評価できます。具体的な事例でいえば、アフガニスタンではタリバンが麻薬を栽培して資金源としています。アフリカではボコ・ハラムが児童を誘拐して少年兵や自爆テロ要員として利用し、人身売買で資金を得ています。多くのテロ組織が様々な活動を通じてマネーロンダリングや武器の密輸、人員のリクルートを行っています。そのような組織に不可欠な資金や資源を供給する行為を処罰し、テロ組織を弱体させることが求められています。こうした不法行為を取り締まる取組は国際的な体制の中でこそ実現するものであります。国際社会の中で日本だけが抜け穴になってはなりません。

同時に、現代のテロリズムの形態は極めて多様であります。かつての要人暗殺テロから一般市民を標的にした無差別テロへ、ハイジャックから人質テロによる要求型テロ、毒物を混入したりすることで社会を混乱に陥れる社会不安型テロなどその形を変えています。さらには、電気や水道、ガスなどの社会インフラを標的としたテロ、コンピューターネットワークを標的としたサイバーテロ、航空機、鉄道などの交通機関を標的としたロジスティクステロなど極めて多様なテロリズムが発生しています。こうしたテロリズムの標的となっている、ターゲットである社会インフラを守るための法制度が不可欠であり、一度起こってしまったら社会に絶大な被害をもたらすこうした現代的テロリズムは、未然に防止するための法体系が求められています。そのための電気事業法、有線電気通信法、ガス事業法、水道法の改正であり、そのための道路交通法などの改正であると評価できます。

また、そのテロリズムの道具、手段も爆弾や銃だけではなく、核、生物兵器、化学兵器によるNBCテロ、CBRNテロなど多様化しています。こうしたテロの道具となる武器の製造、保持による使用を未然に防止するため、組織犯罪防止法改正案では、武器等製造法、銃砲刀剣類所持等取締法の改正、火炎瓶や対人地雷、クラスター弾、ダーティーボム、細菌兵器、化学兵器の製造禁止や規制に関する法改正が網羅的になされております。テロ等準備罪に挙げられているこの二百七十七の項目は、以上のようなテロリズムの多様化に対応しテロリズムの周辺行為をカバーしているという点において、テロ対策の研究者の目から見ても非常に抑制的であると同時に、網羅的で合理的な内容を伴っていると評価いたします。

三点目の論点です。

危機管理には、危険を未然に防ぐためのリスクマネジメントの側面と、危機管理が発生した事後対応のためのクライシスマネジメントの側面が、両方あります。現在の危機管理において危険を未然に防ぐリスクマネジメントが重要視されています。同様に、テロ対策において重要なのはテロを未然に防ぐための取組であります。テロを未然に防ぐためのテロ対策を世界各国が整備しています。特に欧米の先進国においては、それぞれの国の文化や伝統に合った形での特徴あるテロ対策が整備されています。長年IRAと戦ってきたイギリスには、二〇〇〇年テロリズム法という基本法を基に、二〇〇六年テロリズム法、二〇〇五年テロリズム防止法などによる補完によってテロ事件を未然に防ぐための制度が構築されています。二〇〇一年に九・一一同時多発テロ事件を経験したアメリカは、パトリオット法においてテロ事件を未然に防ぐための網羅的なテロ対策を構築しました。テロを未然に防ぐためには、計画と準備行為の段階で拘束する、処罰するという枠組みが、これまで先進国におけるグローバルスタンダードと言えます。

国際化したテロリズムに対して日本が立ち向かうためには、こうした欧米先進国におけるテロ対策の制度と歩調を合わせながら各国のインテリジェンス機関とテロリズムの情報共有を強化するなど、国際協調が不可欠です。しかしながら、日本にはこれまでテロを未然に防ぐための法制度が未発達でありました。日本にある陰謀罪、予備罪、準備罪等は極めて限定的で、テロ対策の分野で有効性があるとは言えない状態だと思います。

こうした制約をグローバルスタンダードのテロ対策に適合させるためには、組織的犯罪集団に限定し合意罪の観点から実行準備行為の段階で処罰するという枠組みが、日本のこれまでの法制度の構造になじむものと評価できます。日本の法制度の構造や歴史、文化を考慮した結果としてテロ等準備罪という制度を導入する組織犯罪処罰法改正案には合理性があると判断いたします。

最後に、アメリカやイギリス、フランスなどの民主主義先進国においても、こうした国際基準にのっとったテロ対策が運営されています。民主主義を守るためには、テロ対策にもシビリアンコントロールが不可欠です。テロ対策における安全、安心と自由、人権の価値対立をどうやって克服するか、その両方の価値のバランスをどう取るか、合意形成が日本においても重要になります。しかしながら、自由、人権と対立するテロ対策は一切まかりならぬという考え方は、日本は国際的責任を果たすことはできません。

私のコロンビア大学時代の恩師でありますロバート・ジャービス教授は、民主党員でありましたが、論文の中でこう言っております。テロ対策やインテリジェンス活動は民主主義にとって危険であるが、国民の生命や生活を守るためには必要不可欠なものである、民主主義的なアプローチによるテロ対策の構築が求められている。

これまで二十年にわたって、私自身、このテロ対策における安全、安心と、自由、人権の価値対立とバランスについて考え続けてきました。その観点から見てもこのテロ等準備罪は、国民の自由、人権に十分配慮した抑制的なテロ対策であると評価できます。

以上のような理由で、私は、テロ等準備罪を導入する組織犯罪処罰法改正案に賛成いたします。

御清聴ありがとうございました。

○委員長(秋野公造君) ありがとうございました。

次に、山下参考人にお願いいたします。山下参考人。

○参考人(山下幸夫君) 弁護士の山下です。

本日は参考人として意見を述べる機会をいただき、ありがとうございます。

私は、二〇〇五年から二〇〇六年当時から、かつての共謀罪法案の反対運動に関わってきた立場から、この法案に反対する意見を述べさせていただきます。

なお、以下に述べる内容は私個人の見解であり、日本弁護士連合会の見解とは異なるということをあらかじめお断りいたしておきます。

まず、この法案六条の二の見出しは計画罪でありまして、テロ等準備罪という言葉は法案のどこにもありません。本法案の六条の二にテロリズム集団という用語はありますが、あくまでも組織的犯罪集団の例示にすぎないとされていますから、法案の六条の二をテロ等準備罪と呼ぶこと自体がミスリーディングであり、不適切だと考えられます。

本法案の一条の目的規定には、国連の越境組織犯罪防止条約、以下TOC条約と言いますが、この条約を実施するためという文言は付け加えられようとしていますが、テロ対策という文言の追加はありません。

そもそも、TOC条約の二条は、金銭的利益その他の物質的利益を直接又は間接に得ることを目的とする団体を組織的犯罪集団と定義しており、マフィアや暴力団によるマネーロンダリングなどの犯罪を取り締まることを目的とする条約であります。物質的な利益を得ることを間接的に目的とするという意味において、テロリスト集団がTOC条約で全く対象にならないわけではないとしても、その主たる目的が組織犯罪対策であり、テロ対策でないということはTOC条約の審議経過からも明らかであります。我が国においては四十五の予備罪、準備罪があり、予備罪についても共謀共同正犯が認められております。また、銃砲刀類の所持が罰せられるなど、実質的に見て、未遂より前の段階で組織的犯罪集団の重大な犯罪を取り締まる法律は既に存在しており、二百七十七もの罪について計画罪を新設しなければTOC条約を締結できないとは考えられません。必要があれば具体的な立法事実を踏まえて一つずつ個別立法で対応すれば足りると考えられますし、それはTOC条約を締結した後に行うこともできると考えられます。

我が国は、二〇〇四年に内閣官房長官が本部長である国際組織犯罪等・国際テロ対策推進本部がテロの未然防止に関する行動計画を定め、関係する省庁によって様々な法改正や省令の改正などが実施されています。また、法務省が所管するいわゆるテロ資金提供処罰法や警察庁が所管するいわゆるテロ資金凍結法というものがございます。我が国は国連の十三のテロ防止関連条約に加盟し、必要な国内法の整備を終えており、テロ対策は十分にされてきております。したがって、テロ対策のために二百七十七もの計画罪を新設する本法案が必要であるとは考えられません。

そもそもテロ対策という意味においては、いわゆるローンウルフ型のテロや組織的な背景のないテロには全く対処できないのですから、テロ対策というのは後付けの理由としか考えられません。

次に、法案の六条の二の計画罪の要件について意見を述べます。

法案が提案する計画罪の中核的な概念は計画であります。この計画については、かつての共謀罪法案の共謀や共謀共同正犯における共謀と基本的には同じであると考えられます。そうであれば、いわゆる順次共謀や黙示の共謀による計画も認められると考えられます。

ところが、林刑事局長はこの国会において、法務委員会の審議において、この計画と共謀がほぼ同じ意味であるということは認め、順次共謀も認められると答弁していますが、黙示的に成立することは考え難いと答弁しています。しかしながら、この答弁は、二〇〇五年秋の特別国会でなされた大林刑事局長や南野法務大臣による目くばせでも黙示の共謀が成立するとした答弁と矛盾しております。この法案が成立した後、裁判所が判断する際には、黙示の共謀による計画の成立を認める可能性が極めて高いと考えられます。しかも、捜査段階における逮捕や捜索差押えなどの強制捜査の際には、第一次的には警察などの捜査機関の判断によることになりますから、捜査機関による恣意的な運用のおそれがあります。

そして、黙示の共謀でも計画が成立するということになりますと、何の言葉も交わさなくても成立し得るということになりますので、理論的には目くばせすらも不要であると考えられます。捜査機関がある団体の構成員の内心を探り、重大な犯罪を実行することを合意したと認定することになりますから、それはまさに憲法が保障する内心の自由の侵害となると考えられます。

このような極めて曖昧な計画という概念について第一次的に捜査機関による判断で認めるとすれば、何の謀議もしていない人たちについて計画罪が成立するとされて冤罪を生むおそれがあります。

次に、政府が団体を限定したという組織的犯罪集団という概念についてです。

これは、結合関係の基礎としての共同目的について、継続的な結合体全体の活動実態等から見て社会通念に従って客観的に決めるとされており、対外的に環境保護や人権保護を標榜している団体であっても、それが隠れみのであるとか名目にすぎない、実態として構成員の結合関係の基礎が一定の重大な犯罪を実行することにあると認められる場合には組織的犯罪集団に当たり得ると金田法務大臣や林刑事局長が答弁しております。これも、第一次的には警察などの捜査機関の判断によることになりますから、恣意的な運用のおそれがあり、普通の市民運動団体や労働組合なども組織的な犯罪集団とされるおそれがあります。しかも、団体によっては、構成員の主要な者が一定の重大な犯罪を実行することを計画したと捜査機関によって認定されることによって、そこから直ちにその結合の基礎としての共同目的が一変したとして組織的犯罪集団になったと認定される可能性があります。法案にはこれを否定する文言がなく、その歯止めがありません。

政府は、組織的犯罪集団という概念を入れたことによって適用範囲は限定されることになったと説明しています。しかしながら、条文上、計画をする主体は当該行為を実行するための組織のうちの二人以上の者です。これは組織犯罪処罰法三条一項と似た書きぶりになっており、そこでは、組織というのは犯罪実行部隊を指すとされ、必ずしも団体の構成員である必要はないと解されていました。そして、この国会においても、本法案の六条の二の第一項について林刑事局長は、組織的犯罪集団の構成員に限らずその周辺者が主体となり得るということや、周辺者には本罪の幇助犯が成立し得ると答弁しています。すなわち、周辺者という曖昧な概念によって特定の団体の構成員以外の者が計画罪の主体となることが明らかとなっています。さらに、法案の六条の二の第二項は、そもそも組織的犯罪集団の構成員ではない者が組織的犯罪集団に不正権益を得させる等の目的で行った行為を計画する行為も処罰することになっています。したがって、組織的犯罪集団という要件を加えたことにより適用される範囲が限定されることにはなっていないということは明らかであります。

次に、かつての共謀罪法案にはなかった準備行為という要件について、林刑事局長は、計画とは独立した行為で、計画が実行に向けて前進を始めたことを具体的に顕在化させる行為であると説明し、予備罪における予備行為のような客観的に相当な危険性がある必要はないと説明しています。

これは、アメリカの各州のコンスピラシーに要求されている顕示行為、オーバートアクトを取り入れようとするものだと理解できますが、そうであるならば、この条文の書きぶりと合わせると処罰条件と見るのが自然です。

ところが、林刑事局長は、準備行為は本罪の成立要件であると説明し、逮捕や捜索差押えなどの強制捜査は準備行為がなされてからしかできないと説明しています。この点についても、この法案が成立した後、裁判所が判断する際には、処罰条件であるとして計画だけで計画罪が成立すると判断され、準備行為を待たずに逮捕できると解釈される可能性があります。そして、この意味における準備行為は、予備行為における客観的な危険性がなくてもよいというのですから、ATMでお金を下ろすという行為のような日常的な行為でもよいということになります。第一次的には警察などの捜査機関の判断によることになりますから、計画をした者の日常的な行為を捉えて準備行為だと恣意的に認定されるおそれがあります。

以上のように、本法案が定める要件はいずれも極めて曖昧かつ不明確であり、それにもかかわらず、現行法上で二十一の罪にしか陰謀罪、共謀罪が規定されていないのに、これを一気に二百七十七も新設しようとするのは、刑事法の体系を根底から覆すものであります。

これによって刑事法の構成要件が持っている自由保障機能が失われるとともに、刑事法の謙抑主義が否定され、市民運動団体や労働組合を権力が日常的に監視し、その構成員である市民の自由や人権が侵害されることになります。

計画罪における計画、組織的犯罪集団、準備行為という、それぞれの要件を認定して検挙するためには、捜査機関が特定の団体の構成員やその周辺者の活動を日常的に監視しなければなりません。現在では、犯罪捜査は、犯罪発生の高度の蓋然性がある場合には、犯罪が発生するよりも前から任意捜査が可能であると解されており、林刑事局長は、例えばテロの計画が行われ、その実行準備行為がそれに引き続いて行われる蓋然性が高度に認められるような犯罪の嫌疑がある一定の場合に任意捜査を行うことが許されると答弁しています。

ただ、高度の蓋然性があれば任意捜査ができるというのであれば、計画の後に限らず、計画の前からも任意捜査ができると考えられますし、計画があったことを知るために警察などの捜査機関が日常的に特定の団体の構成員やその周辺者を尾行するなどの任意捜査をすることが可能である必要があり、そのための法的根拠を与えることになります。

これにより、私たち市民は、それぞれの要件が極めて曖昧で不明確であるために、何が許され何が許されないのかの区別が判然とせず、政府に反対する運動をすること自体が萎縮させられてしまいます。最近では、対象犯罪に税法や破産法などがあることから、共謀罪法案に反対するビジネスロイヤーの会が、企業活動が萎縮するという声明を出しているところであります。

最近、国連のプライバシーに関する特別報告者であるジョセフ・カナタチ氏が指摘しているのは、まさに捜査機関による監視活動が市民のプライバシーを侵害するとの懸念であり、それに対する何らの歯止めがないということの指摘でありました。カナタチ氏は、国民に対する捜査機関の活動に対しては、事前、事後の第三者によるチェック機関を設ける必要があると指摘しています。この指摘に耳を傾け、本法案の審議においても参考にすべき点があると考えられます。

日本政府は、国連の人権理事会に対して、特別報告者との有意義かつ建設的な役割の実現のため、今後もしっかりと協力していくと述べていたにもかかわらず、カナタチ氏の公開書簡について、国連の総意ではないなどとして抗議書を送付しただけで、現在に至るまで法案の英文も送付せず、質問にも回答していないということは極めて残念な対応であると言わなければなりません。

我が国において、任意捜査については令状主義の適用はありませんから、警察などの捜査機関による尾行などの任意捜査については誰もチェックすることができず、そのため濫用のおそれが強く懸念されます。我が国において、逮捕や捜索差押えなどの強制捜査については、令状主義により、裁判官の発する逮捕状や捜索差押許可状が必要ですが、その却下率は極めて少なく、十分なチェックがなされているとは言えません。それは、捜査機関が作成した疎明資料だけで裁判所が判断しているからだと考えられます。韓国では、逮捕する際に被疑者を裁判所へ呼び出して、その言い分を聞いた上で逮捕状を発するかどうかを決めており、我が国の強制処分における令状主義の在り方を見直す必要があると考えられます。

警察は、GPSの発信装置を被疑者の車両等に取り付けて、そのGPSによる位置情報を取得するというGPS捜査を任意捜査であると解して裁判官の令状を取得することなく実施していたことが判明して、刑事裁判においてその証拠能力が争われ、本年三月十五日の最高裁判所大法廷判決において、その捜査は強制処分であり、令状なしに行われたGPS捜査は強制処分法定主義に反すると判断されました。しかし、警察はその判断がなされるまでGPS捜査のほとんどのケースで無令状で実施していたのですから、警察による監視型捜査が濫用されるおそれがあるというのは単なる杞憂ではなく、大いに予想されることと言わなければなりません。

政府は、今回の法案は刑事実体法の改正であり、刑事手続法の改正ではないということを強調しています。しかし、新たに市民にも適用される可能性のある組織的威力業務妨害罪や著作権法違反の罪などを含む二百七十七もの罪について計画罪として新たに処罰することができる根拠を作ることになりますから、捜査機関にはそのための捜査をする権限が与えられることになります。警察などの捜査機関の権限を拡大する法律であるということは間違いありません。今回、政府が二百七十七もの計画罪を新たに作ろうとし、これを急いでいる本当の狙いは、まさにこの点にあると考えられます。

この意味において、これはまさに治安立法なのです。現代の治安維持法だという指摘がありますが、二百七十七もの計画罪が特定秘密保護法や通信傍受法などと併せて運用される中で、同じような又はそれ以上に政府に反対する国民の活動を弾圧する武器にならないとも限らないと考えられます。

二百七十七の罪の計画罪のターゲットは、政府がしようとすることに対して反対の運動をする市民運動団体や労働組合などであると考えられます。この法案が成立すれば、すぐにではないにしても、政府の活動に対して反対する団体、例えば沖縄の基地建設に反対する団体や原発の再稼働に反対する団体、そして集団的自衛権の行使として自衛隊の海外派兵に反対する団体や憲法改正に反対する団体について、その構成員や周辺者が警察などの捜査機関によって日常的に監視されることになることが予想されます。

さらに、将来的には、二百七十七の罪を対象とする通信傍受法の改正や室内盗聴を可能とする立法がなされ、司法取引の対象犯罪とする刑事訴訟法改正もなされると考えられます。既にある町中の多数の監視カメラと顔認証技術の利用を併せて、私たちの活動が日常的に監視される監視国家になることが強く懸念されます。

現在、このような監視によって得られたデータを捜査機関が蓄積、管理して運用することについて何らの法的規制がありません。今回の法案を検討するに当たっては、捜査機関による私たちのプライバシー情報の収集、蓄積、運用をすることに対する法的規制についても併せて検討しなければならないはずであり、この点に関する議論を全くしないまま今回の法案を成立させるのは、私たち市民が抱いている深刻な懸念を払拭することは到底できません。

今回の法案審議を見ても、審議をすればするほど法案の抱える欠陥や問題点が明らかとなっています。今回の法案の審議については、今言ったような、監視したことによって得られたプライバシー情報の収集、蓄積、運用についての規制に関することも含めて、その在り方について一から見直すべきであり、一定の時間が経過したからといってこれを可決するというような、そのような法案の審議の在り方に対しては強く反対いたします。

本法案は、これは廃案にすべきものであると考えるものであります。

以上であります。

○委員長(秋野公造君) ありがとうございました。

次に、村井参考人にお願いいたします。村井参考人。

○参考人(村井敏邦君) 一橋大学名誉教授の村井です。一応、肩書、弁護士というのも付いておりますが、ほとんど弁護士の活動らしいものをしておりませんので、今日の肩書は名誉教授というだけで、刑事法を専門にして研究してきた者の立場から、この法案に対する反対の意見を述べさせていただきます。

お手元にレジュメを配らせていただきました。

まず、基本的なところですね。刑法の原則は何か。行為主義原則というのが刑法の原則です。行為者を中心とする行為者主義というのもありますけれども、戦後の体制は行為主義原則を取っております。これはなぜかというと、戦前における反省に基づくものです。戦前、日本及びナチス刑法が、行為者の危険性を処罰するということで、行為がなくとも処罰するという刑法体系あるいは治安法というのを持っておりましたが、これに対して、いかにそれが人民の、人々の自由を侵害し、恐怖に陥れたかということに対する反省から、刑法は行為がなければ処罰しないというのを基本原則とするというように多くの人たちが、刑法学者が考えてきたところです。

これに対して、最近、先ほど参考人の発言にもありましたけれども、危機管理あるいは危険が横溢しているというようなところから、危険予防の観点から処罰を早期化すべきであるという議論も起きてきております。その観点から、行為がなくても処罰をさせる、するというのが現代に適応しているんだと、刑法も現代に合わせて考えを変えなければいけないという議論が一方であります。

しかし、基本原則を変えて現代に適応する、まあ現代をどう見るかというのはこれ自体議論が分かれるところではありますが、危険だからということで、その危機管理だけで刑法の基本原則を変えるというのは、これは我々刑法を専門として研究してきた者にとっては言わば学者の良心を捨て去るようなもので、この考え方に基づいた立法に賛成するわけにはいきません。

そして、いや、この国会の審議の中で政府が主張することには、必ずしも行為を無視しているわけではない、従来の共謀罪と違って単に内心を処罰するのではないんだ、準備行為とか計画というのは一種の行為なんだと、だから、行為を待って処罰するんだから、原則を変えるわけではないという発言もされておりますが、この場合の行為主義におけるところの行為とは、犯罪の実行行為を待って処罰するというのが行為主義であって、その前の準備とか計画で処罰するのが行為主義に合致するわけではないので、準備、計画という言葉に変わったところで、行為主義原則をないがしろにするという点においては変わりがないというふうに言わざるを得ません。これが第一点ですね。

それから、提案されているテロ等準備罪は、先ほどの発言にもちょっと出しましたけれども、共謀罪とは異なるんだというように主張されています。法構造も違うんだというように主張されておりますが、これに対しては大きな意味で二つの疑問がある。形式的な点での疑問と実質的な点での疑問です。

形式的な点での疑問の第一は、山下参考人からも出ましたけれども、条約の要請に合致するのか。TOC条約、私は、これを越境的組織犯罪防止条約というので国際的というようには言っておりませんが、トランスナショナルですので、インターナショナルではないから越境的と訳すのが妥当であろうということで言っておりますが、一々そういう言葉を使うのはややこしいので、TOC条約というので省略してお話ししますけれども。

TOC条約の要請は、第五条において、共謀罪又は参加罪を設けることと。これが義務的であるかどうかということについてはこの議会における審議においても議論がされてきたところでありますけれども、いずれにしても、共謀罪又は参加罪を設けるということが五条で要請されているわけですが、テロ等準備罪、これも構成要件としては、計画というのが構成要件、計画した者ということになっておりますので、それが構成要件と考えざるを得ないですけれども、刑事局長は準備行為も構成要件だと言って主張してきている、主張なんですが、それが通るのかどうか。この条文構成からいってそうは見れないだろうと思うんですが、構成要件としては計画ですね。計画で処罰するということですが、計画罪ということになると、これは共謀罪と違うのか違わないのか、よく分かりません。

実は、後でもちょっと触れますが、いわゆる東京裁判で、侵略戦争の罪と侵略戦争を共謀したあるいは計画した罪、この両者で処罰されているのが東京裁判です。この点は議員の方々には御存じだろうと思いますが、共謀罪というのが言わば日本人に適用された数少ないといいますか、唯一、日本で行われた裁判においては唯一と言っていい、東京裁判において侵略戦争の罪という実行した罪と併せて準備罪あるいは計画罪というのが処罰されております。併存して処罰できるんだという形で処罰されておるんですが、そうなると、共謀というのと計画というのと準備というのはどういう関係になるんだ。違うということになるのか、そうすると条約の要請には合致しないということになってしまうという、形式的な議論をしますとそういうことになり得る。

第二番目には、先ほども、今も言いましたように、共謀罪と異なるということになると、共謀罪との二重処罰は可能であるというようなことになってしまう。日本では共謀罪は設けない、計画罪だけだということになると、日本での二重処罰はないということになりますが、これはあくまでも条約との関係で設けられる罪だということになると、国際的には二重処罰ができると。他国において共謀罪で処罰された者が日本においてもなお計画罪で処罰されると、あるいは他国では共謀罪で無罪になった者が日本で計画罪で有罪になるということもあり得るのか、こういう問題が出てきます。違うのか違わないのか、形式的な議論を前提とするとそういう疑問が出てくるわけです。

実質的な点では、既に山下参考人の中でも指摘がありましたが、目的規定に条約批准のため、TOC条約批准のためとしかなくて、テロ対策は目的にはないですね。にもかかわらず、これはテロ対策のための法案であるということが主張されている。どうしてなんだろう。テロ対策が目的ならば、テロ対策というのを第一条、法案の、法律の目的の中に書くべきであります。書いていない。それは書けないわけですね。やはりTOC条約の受けた形での、その批准のための法案であるということであるわけでしょうから、そうするとそこにテロ対策というのを入れるわけにいかない。テロ対策というのは、この条約を制定するときに日本も反対して、それを項目として入れるのは、入れなかったんだと。その入れないことについての理由はあるというのは審議録を見て分かりますけれども、しかし、いずれにしても、日本は入れることに反対したといういきさつからすれば、目的の中にテロ対策を入れるわけにいかない。にもかかわらず、テロ対策法案なんだということを主張する。それは一体どういうことなのか、私には理解できません。

それから、先ほど言ったように、計画という言葉に変えたから共謀とは違うんだと、その根拠は何なんだと。実質的に考えてみると、審議の中でもだんだんやはり具体的、個別的な計画、計画というのは合意なんだと。結局、合意ということに行き着くとすると、共謀と異ならないということになります。一体そこはどうして計画というのが出てきたのか。計画という言葉についての法案の中での定義は一切ありません。したがって、刑事局長がそれは具体的なんだと言っても分からぬですね。国民には分かりません。私にも分かりません。もし計画が共謀とは異なるんだったら、ちゃんと計画についての定義をすべきです。その定義規定さえない。

さらに、準備行為を要求する意味ですけれども、この点について、先ほどの山下参考人の中にも、発言にもありましたけれども、刑事局長は、最後のところでちょっとそこが曖昧になっているんですが、計画と準備、備わって初めて成立するんだ、この罪は成立するんだというので、準備行為は構成要件であるという考え方を示しておりました。ところが、捜査の問題になってくると、計画したことに十分な嫌疑がある場合には捜査が可能であると。そうすると、計画の段階で準備行為がなくても犯罪は成立しているということになるのか。この発言もよく分かりません。計画と準備との関係というのは非常に曖昧であります。

作成された法案の形式からいいますと、計画が構成要件であって、準備があったときに処罰するという、オーバートアクトですね。コンスピラシー、英米のコンスピラシーという概念にのっとって、まさに共謀罪におけるところの合意を顕現する、外に出す行為を要求するという意味でオーバートアクトというのを処罰条件として加えた、それが法形式を見てみますと素直な解釈だろうというふうに思います。準備行為がなければ成立しないという刑事局長の発言は、そういうように運用される、厳密な形でそこまで構成要件に入れるという、捜査機関が考えるならば、いや、少なくともこの法案形式よりいいかもしれないとさえ思ってしまいますが、そうはいかないでしょうね。そこが大変に危惧されるところです。

例えばオーバートアクトで、日本では余りなじみのないオーバートアクトという言葉ですけれども、これはロス疑惑のときに、三浦和義氏が日本で共謀共同正犯、妻を殺害したという殺人罪についての共謀共同正犯が無罪が確定した後にロス地検に、ロス地方裁判所に起訴されたのが、殺人の共謀罪ということで起訴されておりますが、その起訴状によりますと、オーバートアクトがたくさん書いてあります。その中の一つは、保険金を掛けた、妻に保険金を掛けたというのがオーバートアクトということになっております。

これは、日本の場合でも準備的行為に入ってくる可能性はあります。組織的殺人というのが今回の法案の対象犯罪になっておりますけれども、共謀罪の対象犯罪になっているので、組織的犯罪、殺人の一つの準備的行為として保険を掛けた。保険を掛ける行為というのは全く誰でもできることであって、それを準備的行為とするというのは、これは結局オーバートアクトというのは何のために要求するのかというと、本体である実行行為、殺人罪なら殺人罪を証明する間接証拠の意味しかないんだというふうに言われておりますけれども、まさにそういうようなものだろうと。ただ、間接証拠にしろ、間接証拠というのは本体の実体的行為を推認させるようなものでなければならないので、準備的行為というのが全く関連性のない、推認力もないようなものだと、準備的行為には当たらないということになるはずです。もうその辺り、どうも刑事局長の発言を聞いていてもはっきりしない。

先ほど来、さらに、計画と準備との関係はどうなんだということを言ってきましたので、その関係がどういう関係になるのかが不明確である。内容も不明確だと。準備行為についても、例としては挙げられておりますが、花見で顕微鏡を持っていったかどうなのかというばかばかしい議論をするような問題ではないはずなんですが、そういうような、それは例であって、単なる例でしかない。

いずれにしても、この辺りの概念が一切定義がなく非常に曖昧で、構成要件なのか処罰条件なのかさえ明確でない法律構成、条文構成になっているという点、これがどうしてなんだという疑問です。

それから、テロ団体は……

○委員長(秋野公造君) 村井参考人に申し上げます。お時間が過ぎておりますので、御意見をおまとめください。

○参考人(村井敏邦君) はい。

テロ集団等の組織犯罪集団に限定されるのかということですが、この点も、テロ集団についての定義はありません。さらに、「その他」によって限定されない。組織的犯罪集団の団体の行為が一体に、一般人とは違うんだと、これを入れたことによって一般の企業を処罰するようなものではないということですが、しかし、実際、私が意見書を書いたものの中に、証券会社が業績悪化を知らせずに客を募集した場合、組織的詐欺集団であって、その従業員も共謀共同正犯として処罰されたケースがあります。これは、一般の人も組織的犯罪集団として処罰され得る例であります。これも審議の中で御議論があったところです。

いずれにしましても、こういった法案による最大の問題は、やはり捜査がどのようになるのかという懸念が持たれます。この点について、国連の人権報告者の指摘には謙虚に耳を傾けるべきであろうと思います。プライバシー侵害に対する保障措置を設けるべきであるということについて、これに抗議をするのではなくして、真摯にこれについて検討し、法案成立までに、その点についての明確な回答をすべきであろうと思われます。

いずれにしましても、今回の法案によって刑事法の基本が大きく変わるであろうということが懸念され、私は大変に心配しております。是非慎重な審議を重ねていただきたいと思います。

ちょっと超過しましたけれども、以上で終わります。