山添 拓 参議院議員 日本共産党

国会質問

2022年・第208通常国会

本会議で、刑法改定案について代表質問。

○山添拓君 日本共産党を代表し、刑法等改正案及び関連法案について質問します。
法案に先立ち、ウクライナからの避難者の受入れについて伺います。
入管庁は、日本への避難者に対して、住まいの提供や生活費の支援を行い、受入先の自治体へ移転した後は、医療費、日本語教育費や就労支援費を必要に応じて実費負担することとしています。かつてない対応であり重要です。
必要に応じてとはどういうことですか。とりわけ医療費は、仕事がなく収入がない中、高額の負担となりかねません。避難先、知人や身寄りの有無にかかわらず、安心して医療が受けられるよう支援すべきではありませんか。
人道的支援を必要とする外国人は、ウクライナからの避難者だけではありません。ミャンマーやシリアを始め、紛争地域の暴力や迫害から逃れてきた避難者についても、人道的な対応が求められます。法務大臣の見解を伺います。
法案について質問します。
恋愛リアリティー番組「テラスハウス」に出演したプロレスラーの木村花さんが、SNSで誹謗中傷を受け、自ら命を絶ちました。心からお悔やみを申し上げます。
衆議院で参考人として意見を述べた母、響子さんは、花さんが自死に至った最大の要因について、番組の悪意ある編集、炎上商法で視聴率を稼ぐ在り方、出演者に一方的に誓約書を書かせ、誰にも相談できない状態に置いたことなど、メディアの責任を厳しく指摘しました。その下で、SNSでの異常な誹謗中傷を招きました。
法案は、こうした事態に侮辱罪の法定刑引上げで対応しようというものです。しかし、その出発点から疑問が出されています。
刑法二百三十一条は、事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、拘留又は科料に処すると規定しています。侮辱とは、他人に対する軽蔑の表示であり、社会的評価を低下させる行為をいいます。一方、インターネット上の誹謗中傷で問題になるのは、必ずしも社会的評価の低下ではありません。被害者に直接、誹謗中傷、罵詈雑言が浴びせられることで自尊感情が傷つけられ、精神的に追い詰められPTSD等を発症し、自殺にまで追い込まれる危険がある、私生活の平穏を脅かす行為であることが問われるべきではありませんか。
SNSのダイレクトメッセージやLINEグループのような閉じられた空間での誹謗中傷も深刻です。これらは、公然と行われるわけではありません。侮辱罪で対応するのは、なじまないのではありませんか。大臣は衆議院で、公然性の要件を満たさない誹謗中傷について行政的な諸施策を推進すると述べていますが、それは何ですか。
以上、法務大臣に答弁を求めます。
侮辱罪は、表現内容を理由とする刑罰です。不当な制限により、本来自由に行える表現行為が萎縮することは許されません。
衆議院で政府が示した統一見解は、侮辱罪による現行犯逮捕について、表現の自由の重要性に配慮しつつ、慎重な運用がなされる、表現行為という性質上、逮捕時に正当行為でないことが明白と言える場合は実際上は想定されないとしています。慎重な運用とは何ですか。想定されないとは、想定外もあり得るということですか。
このような懸念を抱くのは、現に心配される事態が起きているからです。
二〇一九年の参院選、安倍元首相が札幌市内で行った街頭演説で、安倍辞めろ、増税反対などと声を上げた市民二人を北海道警が排除しました。こうした政治家に対するやじが侮辱に当たるとして現行犯逮捕されることはないと断言できますか。
札幌地裁は今年三月、警察官が二人の体をつかんで移動させた行為などを違法として、国家賠償請求を認める判決を下しました。表現の自由の中でもとりわけ尊重されなければならない公共的・政治的事項に関する表現行為であったとしています。
ところが、国家公安委員長は、現場の警察官がそれぞれの状況を踏まえ、法律に基づき必要と判断した措置だ、正しかったとの答弁を繰り返しています。現場の警察官の判断次第で、こうしたやじ排除を今後も行うということですか。時の総理の街頭演説であり、官邸の指示を含め、道警の組織的な関与も疑われます。徹底的に検証すべきではありませんか。これが不当な弾圧でないと開き直るなら、侮辱罪の恣意的な運用の懸念も払拭されないではありませんか。
以上、国家公安委員長の答弁を求めます。
侮辱罪は、一八七五年、新聞、風刺画などによる為政者への批判を防ぐ狙いの下に布告された讒謗律に由来し、同じ日に布告された新聞紙条例とともに自由民権運動の弾圧に用いられました。
今日、政治的な言論活動が侮辱罪によって制約されないと言い切れるでしょうか。仮に不起訴になったとしても、現行犯逮捕等のインパクトは自由な言論、表現への脅威となり、萎縮効果を生みます。だからこそ、憲法上特に重要な権利である表現の自由との関わりは慎重な検討が必要です。
ところが、本法案を議論した法制審議会の部会は、僅か二回の会議で要綱を決定しています。憲法学者を委員に加えなかったのはなぜですか。表現の自由の制約について、どのような議論がなされたのですか。名誉毀損罪には公共の利害に関する特則があり、政治家や候補者に関する場合など一定の要件の下で違法性が否定されます。法定刑引上げに当たり、侮辱罪でも同様の規定を設けることとしなかったのはなぜですか。答弁を求めます。
法案は、懲役と禁錮を廃止し、新たな自由刑として拘禁刑を創設するものです。懲役刑が殺人、放火、強盗などに対する刑罰であるのに対し、禁錮刑は政治犯や過失犯などが対象とされてきました。特に政治犯は、通常の犯罪者と異なり、その名誉を重んじた処遇を行うべきだという考えの下に、刑務作業を強制しない禁錮刑を科すべきとされてきたものです。
戦後の刑法改正をめぐる議論でも、政治犯、国事犯の思想を強制労働で改造するようなことがあってはならないという配慮から、懲役刑と禁錮刑の区別が残されてきました。刑罰によって人の内心まで変えることは許されないと考えますが、どのような認識ですか。
一方、本法案の拘禁刑は、刑事施設に拘置するだけでなく、改善更生を図るため、必要な作業を行わせ、又は必要な指導を行うことができるとし、全ての受刑者に刑務作業と改善指導を義務付けています。自由の剥奪に加えて、刑務作業と改善更生を刑の内容とするのですか。作業や指導を拒んだ場合、懲罰の対象となることはありますか。刑務所長などが決める処遇計画に受刑者が意見を述べることはできますか。
国連被拘禁者処遇最低基準規則、通称マンデラ・ルールズは、身体を拘束する刑罰は自由を奪うことによって犯罪者に苦痛を与えるものであり、それを超える強制を内容とすることはなるべく避けるべきだとしています。また、刑務所などでの処遇の目的は、刑期が許す限り、釈放後、法を遵守する自立した生活を営む意志と能力を持たせることを目的としなければならないとし、社会復帰の支援を国家の側に義務付け、受刑者には社会復帰のための処遇に能動的に参加する権利を保障すべきだとしています。
拘禁刑の下で、受刑者の自発性、自律性、尊厳を尊重せず、懲罰の威嚇の下に改善更生を強いることになれば、国際的に求められる受刑者への処遇水準からますます懸け離れてしまうのではありませんか。
以上、法務大臣の答弁を求めて、質問を終わります。(拍手)
〔国務大臣古川禎久君登壇、拍手〕
○国務大臣(古川禎久君) 山添拓議員にお答え申し上げます。
まず、紛争地域から逃れてきた避難民の方々の医療費等の支援についてお尋ねがありました。
身元引受先のないウクライナ避難民の方々については、その境遇に鑑み、一時滞在施設利用中、生活費や医療費を支給し、施設退所後も、原則として当面の間生活費を支給するほか、必要な医療費についても支援することとしています。
また、身元引受先の有無やウクライナ避難民であるか否かにかかわらず、本国情勢等を踏まえた人道的配慮により、特定活動の在留資格を付与した外国人の方々については、国民健康保険への加入が可能となります。
海外から我が国に避難してきた方々に対しては、本国情勢等を踏まえ、個々の置かれた状況等にも配慮しながら、政府全体として人道的な対応に努めてまいります。
次に、インターネット上の誹謗中傷に対する認識についてお尋ねがありました。
一般的に、誹謗中傷は、その内容によっては相手の自尊感情を傷つけ、精神的に追い詰め、私生活の平穏を脅かし得るものです。
加えて、インターネットを利用した誹謗中傷は、インターネットという性質上、公然と行われることが多く、その場合には、過激な書き込みが次々に誘発され、多数の者からの誹謗中傷の内容がエスカレートして非常に先鋭化することがあるという特徴を有しており、被害に遭われた方の社会的評価を大きく低下させる事態を招来します。
このような事態を見過ごすことなく、インターネット上で公然と行われる侮辱行為を抑止するとともに厳正に対処するためには、今回の法改正によって侮辱罪の法定刑を引き上げることが必要であると考えております。
次に、公然性の要件を満たさない誹謗中傷への対応についてお尋ねがありました。
今回の法改正は、公然と人を侮辱する侮辱罪について、厳正に対処すべき犯罪であるという法的評価を示し、侮辱行為を抑止するとともに、当罰性の高い悪質な侮辱行為に対して、これまでよりも厳正な対処を可能とするものであり、インターネット上の誹謗中傷対策になると考えております。
公然性の要件を満たさない場合には侮辱罪の処罰対象にはなりませんが、処罰対象とはならない事案であっても、被害に遭われた方を救済するために、行政的な諸施策を推進していくことが重要です。
法務省においては、例えば人権相談への対応や、プロバイダー等に対する投稿の削除要請などを行っていますが、引き続き、関係省庁、関係機関とも連携し、必要な取組をしっかりと進めてまいりたいと考えております。
次に、侮辱罪の法定刑の引上げに関する法制審議会の部会の構成員及び議論の状況等についてお尋ねがありました。
法制審議会の部会に属すべき委員は、法制審議会の承認を経て法制審議会の会長が指名することとされており、お尋ねの部会の委員については、法制審議会から一任を受けた会長により指名されたものです。
この部会においては、この分野に精通した刑事法研究者も交えて、侮辱罪と表現の自由との関係を中心に集中的な議論が行われ、正当な表現行為が処罰されない根拠や特例規定の要否、当否などについて、充実した議論が行われたものと承知しています。
この部会でも確認されたとおり、正当な表現行為については、刑法第三十五条の正当行為として違法性が阻却され、処罰されないと考えられる上、侮辱罪は、名誉毀損罪と異なり、事実の摘示を前提としておらず、御指摘の特則を適用する前提を欠くことから、侮辱罪について、これと同様の規定を設けることはしておりません。
次に、拘禁刑の創設と人の内心の関係についてお尋ねがありました。
今回の法改正で懲役、禁錮に代えて創設する拘禁刑については、刑罰としての目的、機能に変わりはなく、作業と指導を、いずれも罪を犯した者の改善更生という特別予防のために課すものと位置付けることとし、刑法において、改善更生を図るため、必要な作業を行わせ、又は必要な指導を行うことができると規定することとしています。
ここにいう改善更生とは、罪を犯すに至った要因となっている悪い点を改めるとともに再び犯罪に及ぶことなく社会生活を送ることができるようになることを意味するものですが、憲法上保障される思想及び良心の自由を侵害することが許されないのは当然であると考えています。
次に、拘禁刑に処せられた者に対する処遇についてお尋ねがありました。
お尋ねの、刑の内容という概念については、講学上様々な理解があり得るところですが、いずれにしても、拘禁刑においては、作業と指導について、いずれも罪を犯した者の改善更生という特別予防のために課すものとして位置付けることとし、刑法において、拘禁刑に処せられた者には、改善更生を図るため、必要な作業を行わせ、又は必要な指導を行うことができると規定することとしたものです。
刑事収容施設法では、受刑者の遵守事項として、正当な理由なく作業又は指導を拒否してはならない旨を定めており、これに違反した場合には、懲罰を科すことができることとしています。他方、受刑者に対する矯正処遇の内容や方法などを定める処遇要領は、必要に応じて受刑者の希望についてもしんしゃくして定めることとされており、引き続き、適正な運用に努めてまいります。
最後に、マンデラ・ルールと拘禁刑の関係についてお尋ねがありました。
作業又は指導については、いずれも受刑者の改善更生及び再犯防止を図る観点から重要な処遇方法であり、個々の受刑者の問題性等に応じて必要と認められる場合には実施すべきものであって、実施するか否かを専ら受刑者の意思に委ねることは適当ではないと考えています。
その上で、御指摘の国連被拘禁者処遇最低基準規則は、法的構想力、失礼、法的拘束力のある国際約束ではないと承知しておりますが、処遇の効果を高めるためには、受刑者自身に自分が受ける処遇の意義を理解させ、これを自発的に受ける気持ちを持たせることが重要であることから、実務上は本人に対する動機付けなど必要な働きかけを行っており、今後も効果的な処遇に努めてまいります。(拍手)
〔国務大臣二之湯智君登壇、拍手〕
○国務大臣(二之湯智君) 山添議員より、衆議院で示した現行犯逮捕、侮辱罪の成否等に係る政府統一見解及び政治家に対するやじに係る侮辱罪での現行犯逮捕についてお尋ねがありました。
お尋ねの統一見解においては、捜査機関においては、侮辱罪による現行犯逮捕について、表現の自由の重要性に配慮しつつ、慎重な運用がなされるものと承知しているとされておりますが、この慎重な運用とは、人権に直接関連する逮捕権の運用を慎重に行うとの趣旨であります。
また、同統一見解において、侮辱罪については、表現行為という性質上、逮捕時に正当行為でないことが明白と言える場合は、実際上は想定されないとされておりますが、これは文字どおり、実際上は想定されないものと考えております。
いずれにいたしましても、現行犯逮捕は、逮捕時に犯罪であることが明白でなければなりませんが、犯罪であることが明白というのは、違法性を阻却する事由がないことも明白ということであり、侮辱罪については、表現行為という性質上、現行犯逮捕時に正当行為でないことが明白と言える場合は、実際上は想定されないと考えております。
街頭演説における北海道警察の措置についてお尋ねがありました。
御指摘の事案については、北海道警察からは、いずれも現場の警察官がそれぞれの状況を踏まえ、法律に基づき必要と判断した措置を講じたものであるとの報告を受けております。
警察は、不偏不党かつ公平中正を旨として職務を遂行しており、また、本件は現場の警察官がそれぞれの状況を踏まえて判断し行ったものであることから、官邸の指示を含め、道警の組織的な関与も疑われるとの御指摘は当たらないと考えています。
本件については、現在、国家賠償請求訴訟が係属中であることから、訴訟当事者ではない立場で発言することは差し控えさせていただきますが、いずれにしても、今後とも、各種法令に基づき適切に職務を遂行していくよう警察庁を指導してまいりたいと思います。
侮辱罪の恣意的な運用の懸念についてお尋ねがありました。
警察においては、刑罰法令に触れる行為が認められる場合は、個別の事案の具体的な事実関係に即し、法と証拠に基づき適切に対処することとしており、改正法の施行後においても引き続き適切な対応を行うよう警察庁を指導してまいります。(拍手)

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