山添 拓 参議院議員 日本共産党

国会質問

2023年・第211通常国会

軍拡財源確保法案 参考人質疑 「見直すべきは防衛予算の中身」 半田氏指摘

○山添拓君 日本共産党の山添拓です。
両参考人には、今日は参考になるお話をいただき、ありがとうございました。
細谷参考人に伺いたいと思います。
敵基地攻撃能力の保有など、安保三文書の方向性について、今年一月の日米2プラス2ではアメリカ側から繰り返し歓迎する旨が表明され、日米の戦略の整合性についても三文書の中でも強調されておりましたが、本法案で財源を確保して進めようとしている軍備の増強は、アメリカのインド太平洋地域における戦略にとってはどのような意味を持つものだとお考えでしょうか。

○参考人 慶應義塾大学法学部教授(細谷雄一君) ありがとうございます。
今のアメリカのバイデン政権は、中間層のための対外政策ということを一つのスローガンと掲げて、あくまでも対外政策というものはアメリカの中間層のためにあるんだという、部分的にはこれは前トランプ政権から続いてくるような、米国第一主義的な性質を持っているんだろうと思います。
これは、意味するところは、ウクライナであくまでも、まあウクライナは同盟国、アメリカの同盟国ではございませんけれども、同盟国、友好国の自助努力ということ。これは、例えば、アフガニスタンもある意味ではアメリカが友好国として国家建設を支援してきたわけですけれども、結局は軍事力を撤退させるという決断をせざるを得なかったわけですし、ウクライナに対しても積極的に軍事介入をするかというと、あくまでも装備あるいは経済的な支援にとどまっているということで、やはりアメリカの今の近年の傾向あるいは長期的な傾向として、統合抑止ということでございます。
これは、水平的、スイチョウ的、つまり、アメリカの国内の様々な部局、省庁間の統合をするということと、同盟国、友好国との間での安全保障協力というのを前提に抑止力を高める。これは、単純に言えば、アメリカ一国で十分な抑止力、言ってみれば、アメリカの拡大抑止などのアメリカ一国の力で同盟国を守るのではなくて、あくまでもアメリカによる同盟国に対する拡大抑止は支援と。同時に、その友好国、同盟国独自の自主防衛あるいは自主努力というものの組合せによってあくまでもアメリカは抑止というものを構築しようとしているんだろうと思います。
これは、私は、新しい傾向、従来と同じような要素はございますけれども、これを明確に統合抑止という形でインド太平洋の戦略の中核に埋め込むということは、従来以上により一層アメリカの同盟国の自助努力を促すものだと思いますので、今御質問にあったような、長射程のスタンドオフミサイルであるとか、あるいは無人機等の開発、こういったものは、恐らく日本にとって中長期的にアメリカとの同盟を考えたときに、アメリカに依存し甘えるだけでは恐らく十分に日本の安全は守れない時代に入っているという、そういったアメリカの意向と整合しているものではないかと考えております。

○山添拓君 ありがとうございます。
半田参考人にも少し違う角度から同様の質問をさせていただきたいのですが、この法案はGDP比二%へ軍事費の倍増を狙っているものですが、政府は必要なものを積み上げたとしてきましたが、発端は、トランプ政権時代にNATO諸国に対してGDP比二%、そして、それと同等の負担を日本にも求めてきたと、そこにあるのは明らかだと思います。ですから、総額ありきだという批判もされてきました。
アメリカが日本を含め各国に軍事費の増大を求めるその事情といいますか背景について、どのようにお考えでしょうか。

○参考人 防衛ジャーナリスト・獨協大学非常勤講師・法政大学兼任講師(半田滋君) ありがとうございます。
NATOに対してまずアメリカが求めたというのは二〇〇四年だったと記憶しています。当時、ブッシュ政権で、イラク戦争でアメリカが国費を大分使ってしまって、NATOの中でみんな俺に頼るなと、各国が努力して国防費上げろというようなきっかけでGDP比の二%というのを示したということだと理解しています。
確かに、トランプ政権のときに日本にもGDP比の二%という言葉を投げかけたことはありましたが、でも、それがずっと続いたわけではなかったですね。というのは、アメリカから見れば、日本は在日米軍を置くだけで年間五千億円程度の出費をしていると。アメリカにとって見れば、必要な経費の七五%近くを負担しているのは世界の中でも日本しかないと。さらに、在日米軍基地というのは西太平洋におけるアメリカ軍の拠点でもあると。つまり、それは十分に地政的そして財政的な貢献はしているという考えがあったんだろうと思います。ですから、日本にはあんまり強くそのことは求めてこなかったと。
むしろ、GDP比の二%ってどこから出てきたかなと振り返っていくと、二〇二一年の自民党総裁選のときに高市早苗さんが言い出したのがきっかけ、今回のきっかけはこれだと思います。それは、つまり、まさにアメリカ製兵器の爆買いが続いていて、防衛費がそれほど伸びていないと、このまま行くとパンクするというときに、一気に天井を押し上げてしまえというようなことだったのかなというふうに思っています。その結果として、その内側、五年間で十七兆円増えるその内側の使い道というのは、非常に雑駁な予算の積み上げになってしまったと。まあ防衛費が増えたということは防衛省にとってもいいことでしょうが、しかしながら、実際のところ、この負担をする国民の立場からすれば、納得のいく中身を示した上で提言をしてほしかった、そんなふうに思えるんだろうと思います。

○山添拓君 続いても半田参考人に伺います。
シンガポールで行われたシャングリラ会合の際に、日米豪三か国の国防相会談で共同声明が出されて、米国が提唱するIAMD、統合防空ミサイル防衛で三か国の協力の強化が明記をされています。
今度の安保三文書に盛り込まれたIAMDの強化は、こうした日米同盟の文脈にとどまらず、米国が世界的に進めていくIAMD構想の一環としての位置付けがあると思いますけれども、御意見がありましたらお願いします。

○参考人(半田滋君) 世界的な協力の意味合いがあるというふうに私も思っています。
というのは、今回、敵基地攻撃を持つということが閣議で決まりましたけれども、実際のところ、自衛隊というのは、もうずっと長年にわたって専守防衛でやってきたわけですから、そもそもその外国の基地がどこにあるかということを正確に分かる情報を持ってないわけですよね。そうすると、敵基地攻撃というのは、少なくともアメリカ軍の情報と重ねていかなければできないものであるということが言えると。
また、アメリカが今目指している統合抑止という考えの中では、これはアメリカ軍の中の一体化というだけじゃなくて、同盟国の軍事力も活用するということを含んでいると思います。
しばらく前に、防衛予算の中で、衛星コンステレーションの話が出てきました。これはアメリカが考えている弾道ミサイルを探知、発射、飛翔、着弾まで全部この数百個の衛星で宇宙空間から監視をするというものなんですね。これ、日本も参加を検討している項目でありまして、ここに参加をするというのは、これ低い軌道の衛星なので、大体五年ぐらいしか寿命がもたないんですね。数百個の衛星をアメリカだけで打ち上げるというのはこれ財政的に困難だということもあり、つまり、アメリカ製のミサイル防衛システムを導入している日本は、現在アメリカから早期警戒衛星の情報を常にもらっているわけで、じゃ、日本もそこの衛星コンステレーションに参加をして、そして協力をしろというような話が当然出てくるのは当たり前のことですよね。
ですから、日米豪といった枠組み、そこにインドも入ればクアッドになりますけれど、こういった形でアメリカが考えているこういったIAMD構想に入っていくためには日本の協力が欠かせない。で、その上で長射程のミサイルを持てばアメリカ軍の能力と平仄が合ってくると。だから、非常に第二米軍としての使い勝手のいい組織に自衛隊が変わるんだなということがだんだん見えてきたかというふうに思います。

○山添拓君 ありがとうございます。
細谷参考人と半田参考人にそれぞれ伺いたいと思うんですが、今話題にしましたシャングリラ会合でも最大の懸念は米中間の対立であり、しかし、会期中、米中の国防大臣同士の会談は行われずに、アジアや太平洋諸国の大臣からはこの対立が紛争につながることの懸念を示され、また、その米中両大国に対して責任と自覚を求めるような、こういう発言も相次ぎました。
そういう中で、日本が中国との関係を、どのようにこの緊張関係を打開していくのかということは大事な課題だと思います。その点で、日中間には、二〇〇八年の日中共同声明で、互いに協力のパートナーとなり、互いに脅威とならない、こういう合意があります。あるいは、二〇一四年に、尖閣諸島など東シナ海での緊張関係の高まりについて、これは対話と協議を通じて問題を解決していくと、そういう確認をしてきています。あるいは、ASEANが提唱するAOIP、ASEANインド太平洋構想にも両国が賛同する、幾つかの合意が重なっていることがあると思います。
私たちもこうした累次の合意を土台にして日中両国に現状の前向きな打開を求める、こういう提言も行ってきましたが、米中関係の悪化が取り沙汰されている一方で、日中間には今でも確認できる合意が、蓄積があると考えます。
細谷参考人からは、先ほど、東アジアでは対話によって危機を回避し得ると、こういう御意見も述べられましたが、こうした日中間での合意の蓄積、それを東アジアでの緊張関係の打開につなげていく、その必要性などについて御意見を伺えればと思います。

○参考人(細谷雄一君) 大変難しい問題だろうと思います。
一つは、やはり日本がこの地域において非常に包摂的な秩序構想、自由で開かれたインド太平洋構想という形で包摂的な構想を掲げていると、これは従来のアメリカのやはり米中デカップリングを前提とする政策とは大分アプローチのトーンが違うんだろうと思います。
日本はRCEPという形で中国との間での一定程度の貿易自由化へ向けた合意がございますし、また、中国は入っていないですが、CPTPPという形で日本がこの地域における自由貿易圏を構築し、中国はこれに対する加盟申請をしていると。こういった形で、この地域において日本が日中での協力というものを前提にして危機を回避する努力をするということは、これは必要なことだろうと思います。
一方で、今の問題は恐らく、中国が従来と比べて、十年前と比べてもはるかに世界との間で世界観が独自の世界観を持っている、これが乖離が非常に大きくなっているということだろうと思います。今の韓国が従来の方針を大きく修正し、アメリカや日本との関係を強化し、今非常に中韓関係は悪くなっております。このこともやはり、中国がかなり独自の世界観を持ち、そして軍事力、圧倒的な軍事力を基に、従来以上にいわゆる経済的な威圧という形で自ら求めるものを周辺国に圧力を掛けていく。さらには、他国と比べても著しく情報公開というものの開示が、透明性がないということで、中国が何を考えているかということが、我々に分からないだけではなくて、多くの中国のジャーナリストや外交官や研究者の方と話していても、恐らく中国の指導層が何を考えているかとよく分からないところもあると思うんですね。
そういった意味では、今の状況の中で、私は、日中間で関係を改善をするために、例えば草の根レベル、議員レベル、あるいは軍のレベル、外交官レベル、研究者のレベルでどれだけ交流が進み、信頼関係が進んだとしても、そうではなくて、今の共産党の指導層が一体何を考え、どのようなことをやろうとしているかということを認識を理解し、そこに影響を与えるということが従来に比べて著しく難しくなっている。このことが、やはり日中関係を改善した上でこの地域の安定を図ることの一定の限界になっているんだろうと思います。

〔委員長代理西田昌司君退席、委員長着席〕

○参考人(半田滋君) 対中政策で非常に難しいなと思うのは、日本はアメリカの考えに非常に重なるものが多くて、アメリカの考えに付き従っていくような項目というのは非常に増えていると思います。それが中国をいら立たせていくのかなというふうな考えもできると思います。
重要なのは、台湾をめぐる米中の争いがあった場合に、戦場になるのは中国でもアメリカでもないということですね。実際に今年の一月に、アメリカのシンクタンクのCSISが二〇二六年に中国が台湾を侵攻するというシミュレーションを発表しています。このときに、日本はアメリカに対して在日米軍基地の自由使用をイエスと言う前提でシミュレーションを行っているんですね。その結果として、自衛隊と米軍が中国と戦うことになるわけですけれども、そこで日本は壊滅的な被害を受けるということが分かる。というのは、核保有国に対する攻撃は慎重であらねばならないというふうにCSISは書いているわけです。ということは、中国に対する攻撃はしない、中国もアメリカに対する攻撃はしない、そうすると、台湾と、そして間に挟まっている日本だけが攻撃をされてしまうんだと。
結局、じゃ、日本は、アメリカの基地の自由使用、事前協議に対してノーと言うのかと。ノーと言ったらアメリカからは手ひどいしっぺ返しを受ける。それが両方嫌ならば、アメリカに対しても中国に対しても日本の立場というものをちゃんと説明しなきゃいけないんだろうと思います。これは、中国だけではなくアメリカに対しても言う必要があるというふうに思います。

○山添拓君 ありがとうございます。終わります。

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