2025年・第217通常国会
- 2025年5月22日
- 外交防衛委員会
建設アスベスト被害者救済 建材メーカーによる基金つくり速やかな補償の実現を
○山添拓君 日本共産党の山添拓です。
三件の条約の承認にはいずれも賛成です。
ILO百五十五号条約に関わって伺います。
二〇二一年五月の建設アスベスト訴訟最高裁判決が、労働者だけでなくいわゆる一人親方、個人事業主も労働安全衛生法による保護の対象としたことから、法改正が求められ、同時に本条約の締結も可能になりました。
そこで、出発点となった建設アスベスト被害について聞いていきます。
安くて使いやすく、燃えにくい、高度経済成長期に大量に使われたアスベストは、吸い込むと肺がんや石綿肺、中皮腫を発症します。発症まで数十年という長い潜伏期間から、静かな時限爆弾とも呼ばれます。国の対策が大きく遅れて被害を拡大しました。
最高裁判決を受け、二〇二一年六月、全会一致で可決されたのが議員立法による建設アスベスト給付金法です。
厚労省に伺いますが、直近の審査会までの申請と認定の件数をお示しください。
○厚生労働省 大臣官房審議官(田中仁志君) お答えいたします。
建設アスベスト給付金法に基づく給付金につきましては、法施行日、これは令和四年の一月でございますけれども、法施行日から本年の五月十五日までの請求件数は一万一千九百七十件、そのうち認定件数は八千二百二十六件ということでございます。
○山添拓君 給付金法は国の法的責任を前提とした被害補償ですが、被害者の側から見れば、これによってカバーされるのは半分です。残りの責任を負う建材メーカーは裁判で争い続け、東京高裁や大阪高裁で和解案が示されていますが、いまだにほとんどが解決には至っておりません。給付金が認定された今、御紹介いただいた八千二百人余り、その全ての方々が建材メーカーに対しても同様に賠償を求め得る立場ですが、今建材メーカーを相手に裁判を闘っている原告は千七十名です。まあそれでも大変な数ですけれども、本当は八千数百人、いや、これから申請をする方々も含めてもっと多くの方がメーカーを相手に裁判を起こし得る立場にあります。
しかし、必ずしもそうはならないだろうと思われます。裁判を起こせば、時間が掛かります。弁護士への相談も必要です。また、大きな、それ自体が大きな精神的負担ですし、建材メーカーの側が高裁、最高裁と争いを続けている状況ではなおさらです。
今日は経産省の副大臣においでいただきましたが、最高裁判決は、警告表示の義務を怠った違法があるとして、メーカーの責任を認めています。被害者は建材メーカーからも被害賠償を受けるべきだと思います。その認識をまず伺います。
○経済産業副大臣(大串正樹君) まずは、建設アスベストの被害者や御遺族の皆様の苦しみはもう察するに余り、心よりお見舞いとお悔やみを申し上げたいと思います。
その上で、建設アスベストに関する最高裁判決におきまして、一部責任が確定した建材メーカーがいることについては承知をしております。
その上で、建材メーカーによる建設アスベストによる被害者への対応につきましては、司法判断に応じてそれぞれの責任を果たしていると認識をしております。
経済産業省といたしましては、引き続き、司法判断を注視しつつ、建設アスベストに係る問題の早期解決に向けて建材業界を所管する立場からどのようなことができるか、関係省庁とも連携をして検討をしてまいりたいと考えております。
○山添拓君 注視している、早期解決とおっしゃるんですけれども、提訴して十年、そして今は原告の七割が、七割以上の方が既に亡くなっています。命あるうちに解決をと訴えて闘い続けてきて、既に多くの方が間に合っていないと。ですから、注視している、早期解決と言っている場合じゃないと思うんですよ。急ぐべきじゃありませんか。
○副大臣(大串正樹君) 和解につきましては、当事者双方の合意に基づくものでございますので、訴外の第三者である行政がこれに介入すべきではないというふうに考えております。
○山添拓君 いや、それでは被害者の多くの方は、そしてまた裁判に今立ち上がっているわけではないけれども、本来、補償、賠償を受けるべき立場の方々にとっては、極めて頼りない姿勢だと思うんですね。
資料の二枚目を御覧ください。
給付金法、これ議員立法で作った大事な大事な法律ですけれども、その附則の二条は、国は、国以外の者によるアスベスト被害の補償の在り方について検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて所要の措置を講ずるとしています。ここにある国以外の者というのは建材メーカーのことです。
二〇二一年六月十一日の衆院経産委員会で、当時の梶山大臣はこの法律を受けて、早速事務方ベースで関係省庁との議論を開始したと答弁されています。
その後、経産省として、どのような議論を行って、今日までにいかなる調査や検討を進めてきたのか、大串副大臣、お答えください。
○副大臣(大串正樹君) 委員御指摘の建設アスベスト給付金法附則第二条で規定された国以外の者による補償の在り方の検討に当たりましては、司法判断で認められた企業の法的責任を踏まえて検討を行う必要があると認識をしております。現時点では、建材メーカーは司法判断に応じてそれぞれの責任を果たしているところと理解をしております。
経済産業省では、附則第二条も踏まえて、関係省庁とも連携をしつつ、建設アスベスト訴訟の情報収集等を継続的に行っているところでございます。この建設アスベストに係る問題の早期解決に向けて、建材業界を所管する立場からどのようなことができるか、司法判断も注視しつつ、引き続き関係省庁とも連携しながら対応してまいりたいと考えております。
○山添拓君 いや、司法判断はもうはっきりしているんですよ、責任があるということはですね。
情報収集と今おっしゃいました。どんな情報収集をしてこられたのでしょうか。
○経済産業省 大臣官房審議官(田中一成君) お答え申し上げます。
例えば、経済産業省におきましては、当時のアスベスト含有建材の生産量などについて、裁判情報、過去の民間調査会社レポート、建材メーカーの有価証券報告書などを確認してきております。一方、当時のアスベスト含有建材のメーカー名や生産量などの記載が網羅的に記載した文献はまだ得られていない状況でございまして、これらの資料のみから、アスベスト含有建材のメーカーごとの生産量などを網羅的に把握することは困難な状況でございます。
引き続き、情報収集などに努めてまいる所存でございます。
○山添拓君 梶山大臣は当時、早期解決に向けてしっかりとスピード感を持って対応してまいりたいと述べているんですね。それから四年たつわけです。繰り返しますが、メーカーの責任というのは最高裁が既に認めています。その責任の取り方として高裁段階で和解協議が行われているのが現状ですけれども、責任があることははっきりしているわけです。
では、どのように今後、この裁判に立ち上がっている、立ち上がる条件のある方以外も含めてどのように救済を図っていくのかと。副大臣、伺いますけれども、ここの附則二条にあります、必要があると認めるときは所要の措置を講ずるとあるんですけど、その必要性については既に認識されていますか。建材メーカーについて、給付金法改正して新たな措置をとっていくというその必要性について、御認識いかがでしょうか。
○副大臣(大串正樹君) 繰り返しになりますけれども、建材メーカーによるその建設アスベストによる被害者の対応につきましては、司法判断に応じてそれぞれの責任を果たしているというふうな認識でございます。
ですから、我々といたしましては、司法判断を注視しつつ、建設アスベストに係る問題の早期解決に向けて、建材業界を所管する立場からどういったことができるか、関係省庁と連携して検討しているという状況でございます。
○山添拓君 いや、司法判断を踏まえてといっても、まだ応じていないんですよね、ほとんどは。争いを続けているんですよ。裁判はずっと続いている、三十二件まだ係属をしております。
関係省庁と連携をしてという話でしたから、今日は厚労省にもおいでいただいていますが、この間、経産省とどういう議論、検討を行ってきたのでしょうか。
○政府参考人(田中仁志君) お答えいたします。
先ほど副大臣からも御答弁ありましたように、建設アスベスト給付金法附則第二条で規定された国以外の者による補償の在り方の検討に当たりましては、司法判断で認められた企業の法的責任を踏まえて検討を行う必要があるというふうに認識をしております。
これまで、経産省と連携をいたしまして、建設アスベスト訴訟の情報収集等を継続的に行っているところでございます。引き続き、関係省庁とも連携をしながら対応してまいりたいと考えております。
○山添拓君 どのような議論を行い、どのような情報を収集できているのかということが、残念ながら見えないんですね。せっかく法律を作って、法律を作ったからには、国はと、政府の側の責任が生じます。ですから、どのように建材メーカーにもきちんと賠償を行わせる補償措置に参加を求めていくかという検討が必要だと思うんですね。
この間、経産省と厚労省でどのような議論を進めてきたのかについて、委員会に報告を求めたいと思います。
○委員長(滝沢求君) 後刻理事会で協議いたします。
○山添拓君 原告がどの現場でどのメーカーの建材からアスベストを吸入したのか、正確に認定することは困難です。そこで、判決は、マーケットシェア一〇%以上のメーカーに賠償を命じるなど、シェア論を取って、責任が認められたのは十二社です。しかし、百社を超える建材メーカーの全てが警告義務に違反し、その法的責任が認められています。ですから、メーカー全体が被害者全体に対して責任を負っているわけです。したがって、全てのメーカーが参加して基金をつくって、被害救済を図っていくのが筋というものだと私は思います。
これは副大臣に伺いたいんですが、経産省として、建材メーカー自身に対しても、あるいは日本石綿協会や石綿スレート協会などに対しても情報提供を求めて、このシェア、確認していくと、これ大事なことだと思います。いかがでしょうか。
○副大臣(大串正樹君) 令和三年の三月に、経済産業省から関係する工業会に対して、メーカーごとの建材の生産量及び建材ごとのアスベストの使用量についてデータ提供するように依頼したのでありますけれども、各工業会からは、当該の統計を取っていなかったとか、メーカーごとの内訳を保有していない、あるいは個社の了解が取れないなどの理由によってデータの提供が難しいとのことでありました。
一般論といたしまして、各企業の情報を公表するか否かは各企業の判断に委ねられているものと承知をしておりまして、経済産業省といたしましては、当時のアスベスト含有建材の生産量などについて文献調査を行うほか、提訴されている一部の建材メーカーとの意見交換や建設アスベスト訴訟の情報収集等を継続して行っているところであります。
引き続き、情報収集等に努めてまいりたいと思います。
○山添拓君 今、メーカー側からの了解が取れないので資料が出されていないという話がありました。これはゆゆしき問題だと思います。
例えば、大阪高裁の判決でもこういうふうに言っています、被告側の企業はですね。自ら保有する社内資料を提出することによって、シェアの認定資料に書かれた数値の正確性を争うことができるにもかかわらず、一部の企業を除いてそのような証拠は出されていないと。ですから、本来持っているはずなのに、自社の資料ですから、持っているはずなのに出さない。たまたまシェアの資料が残っていた、そして提出された一部のメーカーだけが責任を負うと。ほかに責任を負うべきメーカーはいるんですけれども、そこは資料を出さず、負担割合、責任の割合が分からないものですから、全体としては賠償額が削減されてしまうと。これ、原告にとっては極めて不合理な結果だと思うんですね。
各社のシェアを明らかにしていく、今、文献資料も含めてということありましたけれども、これ自体は意義のあることだと思います。今、なかなか協力を求められていないということもお話あったようなんですけれども、しかし、改めて、もう令和三年ですから、四年前のことになるんでしょうか。改めて、こうした裁判の経過も踏まえて、各社に対して協力を求める、様々な知見を集めていく、場合によっては訴訟団との協議も含めて、シェアを明らかにして、そして基金をつくっていく土壌をつくっていくと、こういう取組が必要だと思いますが、副大臣、いかがでしょうか。
○副大臣(大串正樹君) 具体的なデータが取れない場面でも、その建材メーカーとの意見交換などを継続的に行っておりまして、その中で当時のデータの有無についても確認をさせていただいているところでもございます。
ただ、ほとんどの企業がデータを保有していないという回答があったりとか、データは裁判所に提出しているという回答をする企業もあったりもしておりますので、とにかく、まず、データを保有していると回答した企業のうち一部の企業にデータを提供いただくなど、それなりの取組はさせていただいているところでもございます。
○山添拓君 副大臣、それで、できるところはデータを取っていくということは集めていくということだと思うんですが、それは是非進めていただきたいと思うんです。その上で、やはり公正に損害を、公平な損害の分担ですね、きちんと賠償していく、そのためには基金をつくっていくということが必要だと思います。メーカーにも適切な拠出を求めていくことが必要だと思います。
訴訟団は今、給付金法を改正して、全ての建材メーカーが基金に拠出し、国とともに被災者に給付金が支払われる仕組みを提案しています。これには参考になる先例があります。公健法、公害健康被害補償法です。大気汚染による気管支ぜんそくなど公害病患者への被害補償の仕組みで、これもやはりどの煙突から出た煙がどれだけの被害をもたらしたかははっきりできませんので、全国の汚染原因者が共同して費用を負担する、工場と自動車で八対二です。汚染物質の排出量に応じて賦課金を徴収して、捻出しています。
この公健法は環境省の所管ですが、建設アスベストで建材メーカーによる基金への拠出制度をつくる上でも参考になると思います。検討いただけませんか。
○副大臣(大串正樹君) 今御指摘いただいたような、建材メーカーによる建設アスベストによる被災者への対応につきましては、これも司法判断に応じてそれぞれの責任を果たしているというふうに認識をしております。
経済産業省といたしましては、この司法判断を注視しながらの、所管する立場から、検討状況を踏まえて連携して対応していきたいと思います。
○山添拓君 判決が出るまで、今も苦しみ続けている皆さんに待てと言うのかと。責任はもうはっきりしているわけですから、この責任を前提にしてどう補償していくのかという、その対策を進めるべきだと思います。これは政府としての責任ですから、強く求めたいと思います。
外務大臣に伺います。
資料の一枚目ですが、本条約が採択されたのは一九八一年で、発効は八三年です。四十年以上掛かっています。政府はこの間、国内法制との整合性について慎重な検討を行っているなどと答弁してきたのですが、結果として、建設アスベスト訴訟の最高裁判決が引き金となって批准となりました。司法判断を受けるまでまともに検討してこなかったと、こう指摘されても仕方がないと思うんですが、いかがでしょう。
○外務大臣(岩屋毅君) 御指摘のように、本条約の締結の重要性は政府として以前より認識をしておりましたものの、本条約に規定される義務と我が国国内法令との整合性について検討を行う必要があったわけでございます。具体的には、本条約の第十七条に規定されております、二以上、二つ以上の企業の同一の作業場における協力義務について、現行の労働安全衛生法上では建設業、造船業、製造業の三業種のみにしか協力に関する規定が存在しないことが締結に際しての主な課題であったというふうに認識をしております。
この点につきましては、労働災害の実態を踏まえまして、危険性の高い業種から優先的に対応されてきたところでありますけれども、近年、産業構造や就業形態の変化に伴いまして、これらの三業種以外でも混在作業による災害が発生をしております。こうした変化に対応するために、今国会で労働安全衛生法の改正案を御承認いただき、業種の限定なく作業場間の連絡調整が義務付けられることになったと承知をしております。これによって、本条約を実施するための国内措置が講じられる見込みとなっております。
また、本条約が二〇二二年にILO基本条約に追加されたことによりまして、労働安全衛生に係る規範の遵守の国際的機運も高まりを見せております。また、国内でも労使双方から本条約の締結についての要請が行われたところでございます。
こうした内外の状況を踏まえまして、本条約の締結について御承認をお願いしているところでございます。
○委員長(滝沢求君) 申合せの時間が参りましたので、まとめてください。
○山添拓君 はい、済みません、すぐまとめます。
いろいろ言われたんですけれども、結局、その引き金は最高裁判決なんですよ。
そして、今、基本条約ということも言われましたが、基本条約であれば、百十一号条約、これまだ批准をされておりません。いや、それだけではなく、ILO条約という意味では、第一回総会で確認された労働時間の条約を始め、多くの条約、まだ締結されておりません。
速やかに進めていただきたいということを申し上げて、質問を終わります。