2026年・第221特別国会
- 2026年6月24日
- 憲法審査会
緊急事態条項必要は暴論
○山添拓君 日本共産党を代表し、緊急集会を中心とした緊急事態対応について意見を述べます。
結論から述べれば、今国会の二回の審議を通じて、緊急政令や衆院議員任期延長の改憲は必要なく、むしろ危険な暴論であることがはっきりしたと考えます。
衆議院憲法審査会で、自民党、新藤議員は、いわゆる緊急政令や緊急財政処分について、立憲主義国家として当然に備えていくべきものと主張しました。しかし、これらは、内閣が緊急事態を認定すれば、国会を経ず、法律と同じ効力を持つ政令の制定や予算の執行を可能とするものであり、内閣に権限を集中させ、国民の権利を制限する憲法停止条項です。権力を縛り、権利を保障するという立憲主義を理由に緊急事態条項の必要性を主張するのは、牽強付会の強弁と言うべきです。
当審査会で、只野雅人参考人は、緊急事態条項の規定がない憲法に不備があるのかといえば、そうは考えない、何がしかの手掛かりになる規定やある種の法理が前提となり対応が取られるとの意見を示しました。また、長谷部恭男参考人は、現代の日本の憲法には緊急事態条項はある、それは参議院の緊急集会制度であり、これで十分間に合うと述べました。いずれも十分受け止めるべき指摘です。
参議院の緊急集会制度は、国に緊急の必要があるとき、衆議院が不在でも、不存在でも参議院のみで国会の機能を暫定的に代替できるとするもので、法律の制定や予算の議決も可能です。もとより、緊急時の対応であるため、速やかに総選挙を実施し、衆参そろって臨時国会を開いていくことが必要です。
ところが、緊急集会では対応できない場合があり得るとして、衆院議員の任期延長による対応が主張されてきました。
長谷部参考人は、両議院は、全国民を代表する選挙された議員でこれを組織するという憲法四十三条一項の規定に照らして、失職した衆院議員を選挙を経ることなくまた衆院議員とするのは異常な制度設計と言わざるを得ないと述べました。全く同感です。
また、同参考人は、任期延長論が根拠とする緊急集会の期間限定論は、憲法五十四条一項が定める日限の趣旨に照らして問題があると指摘しました。すなわち、同条が、解散から四十日以内の総選挙、選挙から三十日以内の国会召集を規定するのは、内閣が衆議院を解散したままいつまでも総選挙を行わないとか、総選挙を実施したものの、結果が思わしくないため新たな国会をいつまでも召集しないといった事態を避け、従来の政府が居座り続けることのないようにしたものであり、にもかかわらず、従前の衆院議員の任期を復活させ、延長し、政権の居座りを認めるのは本末転倒の提案であるという批判です。
四十日や三十日の規定は、緊急集会の機能の時間的な限定を狙ったものではないという説明は極めて説得的です。緊急時の例外的な対応はなるべく例外的なものにとどめ、早期に本来の在り方に戻ることが重要です。
只野参考人は、緊急集会は通常の国会の機能とは異なり、内閣が主導権を持っていることから、国会としては通常に復する力学が働きやすいと述べました。また、衆議院が欠けた状態であることからも、できるだけ早く選挙を実施する方向に動いていくことが期待できるとし、総じて緊急集会は原状に復する力が働きやすいとしました。
一方、衆院議員の任期延長による対応の場合については、長谷部参考人が、一体いつまで議員でいることになるのかという懸念を表明しました。止めどなく延長が続き、いつまでも非民主的な議員が国会と政権に居座り続けるリスクは深刻です。
長期にわたって全国的に選挙を実施できない事態は、容易には想定できません。この点で両参考人が共に強調したのは、最低限定足数の充足が見込める状態をつくり選挙を行えば、衆参そろった国会活動ができるということです。国会議員は、衆参を問わず、また選挙区選出か比例代表選出かを問わず、全国民の代表です。
例えば、大規模災害により被災地を含む選挙区で選挙を実施することができない事態が生じたとしても、それ以外から選出される全ての議員は、当該被災地の被災者はもちろん、他の地域へと逃れた避難者、他の地域から被災者を心配する家族や知人、友人、全ての国民を代表して国会活動に臨むことが求められます。ある地域の住民の声は、その地域選出の議員がいなければ国会へ届けられないなどということはあり得ません。それは、総議員の四割が全国区の比例代表選出で占められる参院議員にとっては当然の前提です。緊急時こそ民意の反映が欠かせません。なるべく速やかに少なくとも定足数を満たす選挙を実施することこそ、議会制民主主義の要請にかないます。求められるのは、可及的速やかに選挙を実施できるだけの平素からの体制整備です。
日本国憲法がいわゆる緊急事態条項を設けなかったのは、何より歴史の教訓からです。参議院法制局は、戦前、大日本帝国憲法八条に基づく緊急勅令は九十件、七十条に基づく緊急財政処分は二十五件、併用された例をまとめると計百八件あったと説明しました。中には、一九二八年、死刑を導入する治安維持法改悪案が国会で廃案となった後に緊急勅令で成立させられるなど、戦争に反対する国民を弾圧するために使われた例まであります。緊急財政処分が朝鮮半島や中国への侵略戦争を遂行する戦費調達のために乱発されたことも看過できません。
また、政府は、一九四一年、衆議院議員の任期を立法措置で一年延長し、太平洋戦争に突入しました。第二次近衛内閣は、当時、選挙を行えば、挙国一致、防衛国家体制の整備を邁進しようとする決意について疑いを起こさしめぬとも限らぬなどという理由で任期を延長しました。
このように、緊急政令や任期延長は、権力による悪用、濫用を容易にし、かつ回復し難い事態をもたらします。長谷部参考人が、緊急政令について、極めて不穏当な提案と批判し、日本という国の在り方自体が根本からゆがめられるリスクがあると懸念を示したのは、ほかならぬ我が国の歴史に照らして当然です。
東日本大震災でも新型コロナの蔓延でも、憲法にいわゆる緊急事態条項がないために対応できなかったという問題はありません。自治体、救急、消防、医療や福祉、学校、公共インフラなど、命と暮らしの支えは日常的な体制があってこそ緊急時にも対応できます。ところが、緊急事態対応の改憲を主張する多くの政党や政治家が、公務員の定員削減など合理化を進め、社会保障費を抑制し、ケアの現場と当事者に限界を超える負担を強いています。根本的な矛盾です。
只野参考人が指摘したように、長期間、全国的に選挙が実施できない事態は極めて特殊で例外的であり、それが数年に一度の選挙のタイミングで起きるとは普通考えられません。
ところが、こうした想定外に備えよとまことしやかに主張する多くの政党や政治家が、現に起こった地震や津波による原発事故のリスクは取り合おうともせず、全国で再稼働や新増設を進めています。
緊急時の議論は、こうして既に恣意的です。九条の下で、戦争を放棄し戦力を持たないという徹底した平和主義を掲げた日本国憲法は、当然ながら戦時を想定した戒厳の規定や緊急事態条項を置いていません。二度と戦争を起こさないという決意からのものです。ところが、目下政府が最大の脅威とあおる中国について、台湾発言で日中の戦争があり得ると宣言し、友好関係を根本から損なっているのが高市総理です。国際秩序と対話に基づき戦争を防ぐ外交こそ必要です。
当審査会で、核攻撃などで参議院議員が同時に多数死亡、行方不明になったらどうするという意見がありました。参議院議員が多数亡くなるときに衆議院議員は多くが無事、任期延長で対応できると想定するのでしょうか。また、緊急時に何を守りたいのか考えるために憲法を前文から作り直し、日本人とは何かなど明確にすべきとの主張もありました。緊急時には国籍によって命の序列を設けるのでしょうか。現実離れした、また人権尊重と相入れない議論はもうやめるべきです。
国会前のデモが続き、六月十九日夜は二万六千人が戦争反対、九条を守れと声を上げました。十七歳の高校生が、改憲され戦争が始まり徴兵されるのは嫌だ、未来を歩むためには平和が不可欠、安全な社会で安心して大人になりたいとスピーチしています。
この声に正面から向き合い、改憲ありきの論点探しや意見集約を急ごうとするのは直ちにやめ、内政も外交も憲法に基づく政治を真っすぐ進めるべきであることを強調し、意見とします。