山添 拓 参議院議員 日本共産党

国会質問

2020年・第201通常国会

法務委員会で湖東記念病院事件再審無罪判決、検察官の勤務延長問題で質問。

要約
  • 法務委員会で湖東記念病院事件再審無罪判決、検察官の勤務延長問題で質問。 湖東記念病院事件では、警察が無罪の証拠を検察に示さなかったため、冤罪が作られました。 権力に疑惑がかかっている時、捜査の程度は検察官のさじ加減です。指揮監督する検察上層部の人事に官邸が介入するのは大問題です。

○山添拓君 日本共産党の山添拓です。
 大津地裁は、三月三十一日、湖東記念病院事件の再審、裁判のやり直しの判決で、被告人だった西山美香さんに無罪を言い渡しました。看護助手だった西山さんが患者の人工呼吸器のチューブを外し殺したとして逮捕され、殺人罪で懲役十二年の刑を受けた事件です。
 判決は、死因は致死性不整脈やたん詰まりで死亡した可能性があるとし、チューブを外したという自白については、男性刑事が西山さんの恋愛感情を利用して誘導したものであることなどから、信用性も任意性も否定をし、証拠から排除いたしました。事件性の証明すらされておらず、犯罪の証明がないとして無罪を言い渡したものです。
 大西裁判長は、取調べや証拠開示など手続の一つでも適切に行われていたらこのような経過をたどることはなかった、刑事司法の在り方を考える機会にしたい、こう述べて、西山さんに説諭をしたそうです。
 捜査、公判の在り方が問われる指摘だと思いますが、大臣はどのように認識をされておりますか。
○国務大臣(森まさこ君) お尋ねの事件に関して、大津地裁が、本年三月三十一日、捜査手続の不当等を指摘した上で無罪判決を言い渡したこと、裁判官が判決文を読み上げた後に法廷において刑事司法の在り方等についての説諭を行ったという旨、報道において承知をしております。
 また、検察当局においては、有罪判決を受け服役された方に対し、再審公判において無罪とする判決が言い渡される事態に至ったことを厳粛に受け止めているものと承知をしております。
 個別事件における裁判所の判断や当該事件を踏まえた裁判官の言動に関する事柄について法務大臣として所感を述べることは差し控えますが、その上で、あくまで一般論として申し上げますと、検察当局においては、「検察の理念」にもあるとおり、基本的人権を尊重し、刑事手続の適正を確保するとともに、刑事手続における裁判官及び弁護人の担う役割を十分理解しつつ自らの職責を果たすこと、被疑者、被告人等の主張に耳を傾けて、積極、消極を問わず十分な証拠の収集、把握に努め、冷静かつ多角的にその評価を行うこと、取調べにおいては供述の任意性の確保その他必要な配慮をして真実の供述が得られるように努めるなどして、処罰されるべきでない者が処罰されるようなことがないように適切に権限行使に努めるべきであるというふうに承知をしております。
○山添拓君 この事件については、昨年の臨時国会でも私、取り上げました。
 自然死を疑わせる証拠があったにもかかわらず警察が検察に証拠を送っていなかったこと、ADHDと軽度の知的障害、いわゆる供述弱者に対する取調べでの供述のコントロール、そして自白偏重など、問題点を指摘いたしました。
 この無罪判決は確定するだろうと思います。法務省として事件を検証するべきだと思いますが、いかがですか。
○政府参考人(川原隆司君) お答えを申し上げます。
 個別具体的な事件につきまして、裁判所以外の機関が誤った判決に至った原因の究明等をする仕組みについては、憲法上認められた裁判官の職権行使の独立性の観点から問題がないかどうか慎重な検討が必要であると考えます。また、個別具体的事件における検察当局の捜査・公判活動上の問題点の検証を検察当局以外の機関が行うことも、検察権の行使が裁判官の職権行使の独立性に密接に関連することから、同様の問題があると考えているところでございます。
 したがいまして、法務省として調査、検証をすることについては慎重な態度を取らなければいけないと考えるところでございますが、あくまで一般論として申し上げれば、検察当局におきましては、無罪判決があった場合等には、当該事件における捜査・公判活動の問題点について検討するほか、捜査、公判に関し、必要に応じ、検察庁内で勉強会を開催したり、各種の会議において報告するなどして、検察官の間で問題意識を共有し、今後の捜査、公判の教訓としているものと承知しております。
○山添拓君 それは当然行っていただきたいと思いますし、私は同時に、再審手続の詳細な定めがない法制度上の問題点についても改めて指摘をさせていただきたいと思います。
 それでは次に、黒川検事長の勤務延長について伺います。
 検察官には適用されない国家公務員法の勤務延長を、解釈変更によって適用できるようにしたと説明されております。
 三月十八日の当委員会で、法務省が検討に当たって参考にした資料の提出を求めました。お配りしている資料の二枚目にそのリストがありますが、これが出されてまいりました。十六点ですね。
 法務省、伺いますが、この中に検察官にも勤務延長を適用すべきだと、このように記した文献というのはあったんですか。
○政府参考人(川原隆司君) お答えを申し上げます。
 今御指摘の資料の中に掲載してあります資料の中に、検察官に国家公務員法の勤務延長の規定が適用できる旨の記載がなされたものはございません。
○山添拓君 社会経済情勢の変化についての資料というのは提出されなかったんですけれども、それもありませんでしたか。
○政府参考人(川原隆司君) お答え申し上げます。
 社会情勢の変化でございますが、これにつきましては、検察官の定年引上げに関する法律案の策定の過程で、現行法の勤務延長制度や再任用制度について国家公務員法と検察庁法との関係等について検討した際、犯罪の捜査等に当たる検察官を取り巻く情勢の変化について検討しているところでございます。
 そして、検察庁に関することを所管する刑事局におきましては、昨今の犯罪情勢の変化等については当然把握しているところでございまして、担当者が検討するに当たってあえて資料を参照する必要はなかったものでございます。
 以上です。
○山添拓君 あえて資料を参照することはなかったと。具体的な資料はないんですよね。結局、大臣は、法務省が検討すらしていなかった社会経済情勢の変化なるものを解釈変更の理由として強弁してきたということであります。
 では、なぜ解釈変更するのかと。
 大臣は、三月二十四日の当委員会で、これまで検察官に勤務延長の適用がないことにより公務の運営に著しい支障が生じた特段の事例は見当たりませんでしたと答弁されました。公務が害される出来事はなかったとおっしゃるんですね。元々、勤務延長というのは、公務遂行に支障を生じないための制度です。それが事例がないということであれば、解釈変更の必要はないじゃありませんか。大臣、いかがですか。
○国務大臣(森まさこ君) 法務省においては、検察官の定年引上げに関する法律案策定の過程において、昨年十月末頃時点では、退官や異動により補充すべきポストが一斉に生じるおそれがあるか否かという視点のみから検討し、検察官については勤務延長及び役職定年の特例に相当する規定を設けなくとも公務の運営に著しい支障が生じるなどの問題が生じることは考え難いと結論付けておりました。
 しかしながら、検察庁法の改正を含む法律案の提出に至りませんでした。本年の通常国会の提出までに時間ができたことから、昨年十二月頃から担当者において改めて検討作業等を行ったものでございます。
 その際、検察官に勤務延長は適用されないとの従前の解釈を維持するのが妥当かどうかという観点に立ち戻って法務省において検討を行った結果、昭和五十六年当時と比べ、社会経済情勢は大きく変化し、多様化、複雑化しており、これに伴い犯罪の性質も複雑困難化している中、検察官においても、業務の性質上、退職等による担当者の交代が当該業務の継続的遂行に重大な障害を生ずることが一般の国家公務員と同様にあると考えて、昨年十月末頃時点の考え方とは別の視点から、検察官にも国家公務員法上の勤務延長制度の適用があるとの見解に至ったものでございます。
○山添拓君 これ、別の視点だとおっしゃるんですね。しかし、別の視点であれば、元々の国家公務員法の規定の趣旨と違う観点を持ち出したということですから、国家公務員法上の勤務延長を適用する理屈にはなっていかないかと思うんですね。
 業務の性質上、当該業務を特定の職員に継続させることが必要だと、こういうお話を今もされました。これ、具体的にはどういう場合ですか。
○政府参考人(川原隆司君) お答えを申し上げます。
 検察官については、例えば、重大かつ複雑困難事件の捜査、公判を担当する検察官や、当該検察官の指揮監督をする検察官が退職により交代することで、当該事件の捜査、公判において時機に即した適切な対応ができなくなるなど重大な障害を生ずる場合が考えられるところでございます。
○山添拓君 重大事件なら歴史上幾らでもあったと思うんですよ。
 前回指摘をしましたように、検察官には勤務延長は必要ないというのが昨年十月末時点での法務省の検討結果でした。それが、昨年十二月になって突然、業務の継続的遂行のためには検察官にも勤務延長が必要だと認識したという説明です。それは通らないですよ。百歩譲って、突如十二月になってひらめいたのだとしても、これ何も解釈変更で急ぐ必要などないと思うんです。
 検察庁法の改正案を検討していたんですから、法改正を待ってからでもよかったんじゃありませんか。
○政府参考人(川原隆司君) お答えを申し上げます。
 検察庁法の改正案を検討するに当たりまして、国家公務員法の規定が検察官に適用がある場合とない場合で検察庁法改正案の条文を、法律案の条文をどのように書くかという点が異なってまいりますので、まずその点を整理したものでございます。
○山添拓君 ちょっと、それが理由になると思って答弁されているというのが私は不思議でなりません。法改正を待たずにわざわざ解釈変更を先行させた結果、黒川氏の勤務延長が実現した、これもう動かし難い事実だと思います。
 大臣、そもそも検察実務において、業務の性質上、当該業務を特定の職員に、特定の検察官に継続させることが必要、この検察官でなければ駄目だという事件を想定するということは許されるんでしょうか。検察官というのは、法と証拠に基づいて独立公平、これが基本ではありませんか。
○国務大臣(森まさこ君) 検察庁の業務遂行上の必要性によって引き続き勤務させるという場合はあり得ると考えられます。
○山添拓君 全然お答えになってないんですよ。
 検察官は法と証拠に基づいて独立公平に事件を取り扱う、これ基本じゃありませんか。
○国務大臣(森まさこ君) それはそのとおりでございますけれども、検事長においては、その豊富な経験、知識等に基づき管内部下職員に対する指揮監督が必要不可欠であると考えております。
○山添拓君 同じ法と証拠の下では同様の終局処分が行われるべきだと思うんですね。もちろん経験や能力の違いはあるでしょう。しかし、それによって差が生じるのは、いかなる証拠をどのように集めるかという点になるかと私は思います。
 例えば、先ほどの湖東病院事件も、現場の捜査官が自白に誘導する取調べを行ったり証拠を検察に送らなかったりしたために、起訴、不起訴の判断を誤らせた可能性があります。つまり、証拠の収集をどこまで行うのか、どのように行うのかという点では、確かに検察官によって差が出ます。権力に疑惑が掛かっているときにどこまで捜査を徹底するのか、どこで手を引くのか、そのさじ加減はまさに検察官次第です。だからこそ、検察トップの人事に官邸が介入するのは大問題だと思うんです。大臣、その認識はありますか。
○国務大臣(森まさこ君) 御指摘のとおり、検察官は独任制の官庁でございますので、個々の検察官は、法と証拠に基づき厳正公平、不偏不党を旨として、適切な事件処理に努めるべきであるというふうに承知をしております。
 他方、検察官の経験等により能力も個人差があり得るところであるから、公平かつ適正な検察権公使を担保するため、検察官は上司の指揮監督に服し、また、検事総長、検事長又は検事正がその指揮監督する検察官の事務を自ら取り扱い、また、その指揮監督する他の検察官に取り扱わせることができるものとされております。このような仕組みにより、検察権の公使が全国的に均斉かつ適正に行われているものと承知しております。
○山添拓君 全然伺ったことにお答えいただいていない。答弁書をお読みいただいただけで、答えていないんですよ。
 私が思いますのは、司法の独立や準司法官としての検察官、行政との緊張関係、余りに認識が甘いと指摘をしなければならないと思います。この問題については引き続き質疑をさせていただきたい、そのことを申し上げまして、質問を終わります。
 ありがとうございました。

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