山添 拓 参議院議員 日本共産党

国会質問

2023年・第211通常国会

男女働きやすい環境を 山添議員に参考人 「現下の経済情勢」に関する参考人質疑

要約
  • 山添拓議員は、日本が実質賃金の上がらない国になってしまっている背景や原因について質問。小峰隆夫大正大地域構想研究所教授に質問。小峰氏は、実質賃金を増やすかぎは、生産性の向上、分配率、交易条件の3点だと指摘し、「基礎的な成長力が衰えてきたことが、実質賃金の低迷の背景にある」と答えた。意見陳述で、女性の就労環境改善が必要だと述べた久我尚子ニッセイ基礎研究所上席研究員は、山添議員の「女性の低賃金の構造的な問題を解決するために必要なことは何か」との質問に、「女性も男性も、将来的に安心して働き続けられる環境整備。そのためには、出産・育児で離職しなくてよい就業環境が重要だ。女性が働きやすい職場は男性も働きやすく、若い男性の育休取得意向も高くなっている」と答えた。

○山添拓君 日本共産党の山添拓です。
参考人の皆さん、今日はありがとうございます。
初めに、小峰参考人に伺います。
今日、賃金、雇用の話もそれぞれ話がされてきました。直近では、昨年は、実質賃金が八か月連続で前年を下回り、昨年の十二月もプラス〇・一%ですから、物価高騰に追い付く様相ではないかと思います。また、もう少し長期的に見ても、そもそも日本の賃金は四半世紀にわたって下がり続けてきて、OECDの加盟国の中でも下から数えた方が早い、そういう賃金の上がらない国になってしまっている現実があるかと思います。
非正規雇用の拡大や格差と貧困が指摘され、先日、当調査会に来られた参考人も、食料支援を利用する方が減らないと、こういう現場の話をされておりました。一方で、大企業が五百兆円もの内部留保を抱える事態も生じています。
このように、賃金が上がらない国になっている背景や原因について、参考人のお考えをお聞かせください。

○参考人 大正大学地域構想研究所教授(小峰隆夫君) 御質問ありがとうございます。
これはなかなか難しい問題で、そこが分かれば何とかなるというので、そこがなかなか分からないので多くの人が苦労していると思うんですけれども。
ちょっと、私の考えはやや多くの人の考えと違うかもしれませんが、実質賃金、つまり実質的に我々が受ける賃金を増やすための道というのは基本的には私は三つしかないというふうに思っていて、一つは生産性が上がること。つまり、一人一人の生み出す、付加価値で生み出すものがより増えていけばそれは実質賃金の上昇に必ずつながるはずだという、生産性の上昇が重要だと。それから、二番目にあるのが分配率ですね。分配、企業の取り分と労働者の取り分で、労働者の取り分が上がれば上がるほどそれは実質賃金は上がりますと。それから、三番目は、交易条件なんですけれども、これは輸入物価と輸出物価の比率なんですけれども、例えば、産油国は自分たちが輸出している石油の値段が上がれば自分たちは別に働かなくても実質賃金はどんどん上がっていくわけですね。ですから、交易条件というのも重要だということですが、これ、長い目で見た場合と現在の賃金とちょっと次元が違うんですけれども、長い目で見ると、私は、基本的には企業の、企業じゃない、日本経済の成長力自身、つまり生産性が、実質生産性、付加価値生産性が上がっていく力が衰えていると。これは、要するに成長戦略の問題になるんですけれども、基礎的な成長力が衰えてきたということが基本的には実質賃金の低迷の背景にある。
つまり、これは簡単な話で、我々が取り分を増やそうと思えば誰かがその取り分を生み出さなければいけないということですから、みんなでその生み出す力を増やしていけば取り分も増やしやすくなるということです。誰も生み出す力を増やさないで取り分だけ増やそうということは多分できない。これは分配率を上げればできるんですけれども、分配率を上げ続けることはできないので、企業がもうけ過ぎだというので、それを賃金に回せということはできますけれども、それはもうけ過ぎを解消したらそれで終わりになってしまうので、継続的に賃金が上がるためには、やはり基礎的な成長力が重要だと。それから、交易条件の方は、これはなかなか日本の力でどうこうするわけにはいかないので、外的に与えられてしまうものだと、こういう整理をしております。

○山添拓君 ありがとうございます。
久我参考人に伺います。
非正規雇用や雇用によらない働き方の下で、低賃金かつ不安定で先が見えない、そういう事態があるかと思います。今日は、女性の就労環境の改善、安心して働き続けられる環境をという話をこれまでも何度か御紹介いただきました。やはり女性は非正規雇用が多く、また正規でも女性は賃金が低い、あるいは女性の多い保育や介護、ケア労働と言われるところで賃金が低い実態があります。こうした構造的な問題がその背景には大きくあるかと思います。
今日、将来世代が明るい見通し持てるようにということを言っていただいておりますが、この構造的な問題を解決する上で重要と考えておられる点について御紹介いただければと思います。

○参考人 ニッセイ基礎研究所上級研究員(久我尚子君) 御質問ありがとうございます。
構造的な問題としては、その改善傾向には全体的に向かっていると思います。特に、二〇一三年に成長戦略で女性の活躍というのが掲げられて以降、女性の職業生活に関する指標、非正規雇用率は、この二十五から三十四歳の方は、資料でも出しましたけれども、下がっているとか、これは結局、就業継続ができて、正規雇用の職に就きやすいとか、女性の活躍という流れの中で企業側なども正規雇用として女性の採用を積極化しているということです。正規雇用の男女の賃金の状況を見ても、縮小傾向にはあるという、改善傾向にはあると思います。
何が一番問題なのかというと、やっぱり女性の非正規雇用率が高いので、結局、全体で見た男女の賃金格差にもなりますし、経済基盤という意味でも不安定になっていく。ですので、まずは、出産、子育てで離職したいという方ももちろんいらっしゃるんですけれども、そうではない女性が働き続けられる就業環境を整備していく、これが重要だと思います。
今の若い世代の男性の就活の状況などを見ても、やはり女性が働きやすい環境というのは男性も働きやすい環境である。そして、新入社員の育休取得意向などを見ても、二〇一七年のデータで約八割の新入社員男性が育休を取得したいと答えている一方で、民間企業では最新値でも一四%しか取得できていない。こういう状況があるので、女性という言い方をすると分かりやすいので言っていますけれども、女性も男性も、働きたい形で働き、安心して将来的に働き続けられる環境の整備として、まずはその出産とか育児で離職をしなくても済むような環境というのがすごく重要だと思っています。

○山添拓君 ありがとうございます。
酒井参考人に伺います。
先ほども少し話題に出ていましたが、円滑な労働移動、雇用の流動化、また、それを通じて賃上げをという発想も政治の側の言葉の中には出てきているかと思うんですが、これは、より高い賃金、より良い労働条件が提示される事業者があれば労働者は移動していくものだろうと、むしろ終身雇用や年功賃金がその移動を阻んでいるという考えも背景にあるのかと思うんですね。
一方で、労働法制の規制緩和が続いて、既に若い世代の半数、あるいは女性の半数が非正規雇用で、終身雇用でもなければ年功型賃金でもない状態があります。安定した仕事に就きたくても、そもそもそういう仕事はそうそうない。その下で賃金が上がらないという現状があると思いますが、この点についてはどのようにお考えでしょうか。

○参考人 法政大学経済学部教授(酒井正君) ありがとうございます。
私も、この円滑な労働移動ということが最近しきりに言われるわけですけれども、単純に労働移動だけすればいいわけではないというのはまさに問題意識として持っておりまして、労働移動をしているだけならば、今の非正規雇用の人たちがまさにその労働移動をしている。ただし、この人たちはスキルアップもしないし賃金も上がらないというのが実態なわけです。そういう労働移動ではなくて、恐らく政府が目指しているのは、スキルアップして賃金も、生産性も賃金も上がるんだというような労働移動なわけです。
しかし、それを実現するためにはいろいろときめ細かな対策が必要であろうということは言えるわけですね。それがなかなか難しいんではないか。なかなか難しいんではないかというのは、そういうことは実現しないというふうに悲観的に思っているわけではなくて、たくさんの条件が必要になってくるであろうというふうに考えて、私も先ほど、例えば企業側の協力も不可欠であろうし、個人自身がキャリアアップ形成というものを主体的に考える必要というのも必要であろうというふうに申し上げた次第です。
ただ一方で、もう一つ言えることは、例えば、非正規雇用の人の中に、実はその非正規雇用のままで働いていきたい、あるいは、そのフリーランスの人たちの一定割合はフリーランスとして働き続けたいというふうに考えている人もいるわけです。実は、まあ不思議なことにといいますか、その現在の求職者支援制度、その正規雇用を目指す人たちだけを対象としておりますので、逆にそこでこういった制度の支援が行き届かない、フリーランスで、フリーランスとして働きたいんだけどスキルアップもしたいというような人にむしろその制度が届かないというようなことになっているということで、非常に難しい状況が生じているのかなというふうに思う次第です。
要は、フリーランスあるいは非正規雇用として働き続けたいと思う人も、あるいはその正規雇用にやはりなりたいんだ、だけど今なれないんだという人も含めて、そういったことに関わりなく支援が必要なんじゃないかなというふうに考えている次第です。

○山添拓君 ありがとうございます。
今、フリーランスのお話が出てきましたので伺いたいと思うんですが、政府の調査では四百六十二万人という数字が出されて、まあコロナの下で更に大幅に増えたという調査もあるかと思います。今フリーランスやギグワーカーがセーフティーネットを含めてほとんど無権利状態にあるのは、それ自体は深刻な問題かと思います。
ヨーロッパではギグワーカーを一部労働者であると認めるような判決が出されていたり、あるいはバイデン政権がギグワーカーの労働組合の結成を支援して待遇改善を図ると、こういう方針を出したり、あるいは韓国ではギグワーカーにも雇用保険の適用を拡大すると、こういう動きも報じられています。
ギグワーカー、まあフリーランスなどもですね、そのセーフティーネットを含めた保護法制の在り方について、既に述べられているところもありますが、改めて御意見を伺えますでしょうか。

○参考人(酒井正君) ギグワーカー、まあいわゆるそのフリーランス等に関して、セーフティーネットの提供の重要性というのはここのところ非常に言われているところなんですけれども、一つの在り方として、先ほど御指摘あった雇用保険の適用拡大という方向性はあり得るのかと思います。ただ、そこで、ちょっと私、法律の専門家ではないので法技術的なこと分からないんですけれども、まずその失業認定といったものでハードルが出てくる可能性があることに加えて、結局フリーランスというのも非正規雇用と同じように、先ほど私、意見陳述の中で、何で非正規雇用が失業給付を受給しにくいのかということに関して、適用されていないということ以外にも、例えば適用されたとしても結局被保険者期間といったものを、条件を満たせずに受給できないということが生じてくる。そういう意味では、結局フリーランスに雇用保険を適用したとしても同じことが生じてくるんじゃないかということがまあ懸念として考えられるわけです。
そうすると、やっぱりそのフリーランスへのセーフティーネットの提供というのも、何かその社会保険の枠組みではないところ、保険料の拠出を条件としないようなそのセーフティーネットの提供の仕方というのが重要になるんじゃないかと。そういう意味で、私、思い入れがあるから言うわけではないですけれども、求職者支援制度というのは、そういう意味でポテンシャルが本当はあるんじゃないかというふうに考えているところなんですね。

○山添拓君 ありがとうございます。
小峰参考人に伺いたいと思います。
今日、資料の中でも、バブルの中ではバブルと分からなかったと、それから、不良債権についても当時認識は甘かったと、あるいは大成功と思われたアベノミクスの一年目は短期的なものだったというような、その渦中にあっては分からないことがあるんだということを幾つか例を出して御紹介いただきました。今渦中にあって見えていないけれどもリスクと考えられ得ることは、この現在ですね、そういうことは何だとお考えでしょうか。

○参考人(小峰隆夫君) これもなかなか厳しい御質問だと思うんですが、私は財政赤字だと思います。財政赤字、今ほとんど国債発行のコストはゼロなものですから、幾ら発行しても余り債務としてたまらないということがあるんですが、一方で、まあコロナにしても国防費にしても防衛費にしても少子化対策にしても、財政需要がどんどん出てくるという中で、赤字に対してやはり多くの人が余り危機感を持たなくなってきたというのは、まさにバブル的な、その渦中にあってはその危機が分からないという典型のように私には見えます。
ですから、十年後、二十年後の人が我々を評価したら同じ評価になるんじゃないか、バブル的なところなんだけども分からなかったんだなというふうに言われるんじゃないかというのが私の懸念です。

○山添拓君 ありがとうございます。終わります。

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