山添 拓 参議院議員 日本共産党

国会質問

2023年・第211通常国会

政治的配慮で認定歪めてきた入管難民行政

○山添拓君 日本共産党の山添拓です。
G7サミットの首脳コミュニケには、難民の自由や人権についての記述があります。
外務大臣に伺います。
首脳間でどのような合意に至ったのでしょうか。

○外務大臣(林芳正君) G7広島サミット首脳コミュニケにおきましては、難民保護、避難を強いられた人々や受入れ国及びコミュニティーの支援、難民及び避難民の人権や基本的自由の完全な尊重確保等へのコミットメント、これを再確認しております。また、二〇二三年十二月の第二回グローバル難民フォーラムに向けまして国際社会との協力を継続する旨言及するとともに、人権及び基本的自由への完全な尊重を確保し、国際協力の精神に基づき、難民に関するグローバル・コンパクト並びに国内の政策、法制度及び状況に沿った形で難民の包摂を支援するというコミットメントを再確認しているところでございます。

○山添拓君 人権に関わって、議長国としても当然重視すべき事柄であろうと思います。
外務省のホームページにも難民問題のページがあります。難民条約のほか、クルド難民についても記されております。
大臣は、クルド難民についてはどのような御認識でしょうか。

○国務大臣(林芳正君) クルド人は、統一国家を持たない民族でありまして、トルコ、シリア、イラン、イラク等、複数の国にまたがる地域に居住しているほか、欧米を始め中東域外にも居住していると承知をしております。
こうしたクルド人の中には、かつて居住していた国等における紛争等の様々な理由から、国外に逃れている方々がいらっしゃるというふうに承知をしております。

○山添拓君 トルコ政府から政治的迫害を受け、国連の推計では、二〇一一年からの十年に世界で約五万人が難民として認定されました。日本では、埼玉県の川口市や蕨市など、二千人が住むとされております。
こうして、クルドを始め難民を認定する行政、難民認定は、難民に当たるか否かという事実認定であり、法務大臣が自由な裁量的な判断で決めるものではありません。迫害を受けるおそれを中心とする条約上の要件が備わっていれば難民認定しなければならないというものです。しかし、日本の難民認定行政は本当にそのような運用になってきたのか。日本が難民条約に加入したのは一九八一年です。
今日は、資料の二枚目以降、御用意しておりますが、一九八三年版の法務総合研究所研修教材、出入国管理及び難民認定法Ⅲの抜粋を配付しております。
法務省に伺います。
この研修教材は、誰を対象に作られ、どのように使われてきたものですか。

○出入国在留管理庁 出入国管理部長(丸山秀治君) 御指摘の教材につきましては、入国管理局の職員向けの研修で教材として利用しておりました。

○山添拓君 法務総合研究所は法務省の機関です。職員の研修を行う研修部の教官が作成したものとされます。
その資料②の四ページ、教材でいうと二十八ページを御覧ください。
その六行目です。法務大臣の難民認定は裁量行為ではなく、法務大臣は、申請者が難民の要件に該当する事実を具備すると認めたときは、難民の認定をしなければならないのであると確かに記してあるんですね。
一方、すぐ後に、一応このように理解するとしてとし、続けてこうあります。ヨーロッパにおける難民問題には、その基本的な性格の一つとして、いわゆる東西対立の中での西側による東側向けの政治的な姿勢の表し方にこれが使われているという面があり、難民問題のこうした政治的性格というものは、我が国の場合でも例外ではなく、純粋に人道的な立場からのみこの問題に対応するのは難しい。
さらに、同じような客観的条件を具備する外国人A及びBがあり、双方から難民認定の申請があった場合に、Aは我が国にとって友好的な国の国民であり、Bは非友好国の国民であるとすれば、我が国としては、Bの難民認定は比較的自由に行えるとしても、Aの難民認定にはやや慎重にならざるを得ないということがあり得よう。こうした場合の現実的な対応としては、Aについては難民の要件に該当する事実を具備するとは認められないとして認定は拒否、Bについてはそうした事実があると認めて難民認定を行うといった処理の仕方になって表れる可能性が否定できない。したがって、若干微妙な要素を伴った問題なのだとここでは記しています。
入管庁は現在もこの考え方を維持しているのですか。

○政府参考人(丸山秀治君) 御指摘の手続が記載されました研修教材は昭和五十八年に作成されたものであり、当時の研修職員と、職員研修において使用されていたものと考えております。
なお、研修教材は逐次内容を見直して改訂しており、現在の職員研修においては、当時とは内容が異なる最新の研修教材をしているところでございます。

○山添拓君 その記述はいつ変わったんですか、今指摘した部分ですね。

○政府参考人(丸山秀治君) その点につきましては、ちょっと私ども資料を今確認中でございまして、定かなことは申し上げられないんですが、少なくとも申し上げられますのは、平成十四年の十一月の二十日、衆、参議院の法務委員会にこの件について御質疑をいただいておりまして、その時点におきまして、既にこの今御指摘ありました記載については訂正をしていると答弁しているところでございます。

○山添拓君 今、訂正とおっしゃいました。つまり、当時のこの記述は誤りだったということですか。

○政府参考人(丸山秀治君) 最初いただいた研修教材の記載ぶりはやはりちょっと誤解を、誤解を招くおそれがあるというふうに、認識で訂正されたというふうに理解しております。

○山添拓君 記述が訂正される前のこの同じ文言の教材で研修を受けた入管職員、何人いらっしゃるでしょうか。

○政府参考人(丸山秀治君) 先ほど申し上げましたとおり、いつ改訂されたかを、ちょっと確たる時点申し上げられませんですし、今そういう数字を持ち合わせておりません。

○山添拓君 丸山部長が入省された当時も、この記述のある教材で研修されたんじゃありませんか。

○政府参考人(丸山秀治君) 私が入省した頃、この教材は存在しておりましたけれども、ちょっと研修の内容でここをきちんと読んだかどうかって、済みません、古い話で申し上げられず、申し訳ございません。

○山添拓君 だって、今部長をされているんですから、当時も恐らくきちんと研修を受けられたと思うんですよ。そのような認識の下に入管行政に当たってこられたわけでしょう。

○政府参考人(丸山秀治君) 少なくとも、難民認定の業務に従事している間、先ほど御指摘ありました研修教材の認識で従事してきたことはございません。

○山添拓君 では、何のための研修なんですか。誤解を招くような記載をしていたと先ほど答弁されました。誤解を招くような記述で職員を研修してきたと、だけど研修を受けた職員たちはそうではない対応をしてきたんだと、こうおっしゃるのでしょうか。
記述を変更されたわけですから、いつかはまだ確認中だということですが、そうであれば、この変更前の教材で研修を受けた職員に対しては、これは誤りだったと、誤解を招くような記載だったと、正しく研修し直す必要があると思うんですけれども、そういう研修をされた事実はありますか。

○政府参考人(丸山秀治君) ちょっと突然のお尋ねでございまして、ちょっとその点は確認、今、私自身はちょっと確たることを申し上げられません。申し訳ございません。

○山添拓君 私は、丸山部長を始めとして、これまでこうした記述の下で研修を受けてきた入管庁の職員、現在の入管庁の職員の皆さんは、要するに、この難民認定というのは政治的な配慮によって難民認定の是非を判断し得るものだという認識でこられたんじゃないかと思うんですよ。しかし、人は認定によって難民になるのではありません。難民であるからこそ認定されるわけです。その事実が研修教材の中ではねじ曲げられてきたんじゃないかと思うんですね。
念のため外務省に伺いますが、日本にとって友好国かどうかでこの難民認定のさじ加減を変えるように法務省に求めるようなことをしているんですか。

○外務省 大臣官房審議官(石月英雄君) 難民認定は、申請者ごとにその申請内容を審査した上で、難民条約の定義に基づき難民と認定すべき者を個別に判断するとされていると承知しております。

○山添拓君 つまり、外務省から日本にとっての友好国かどうかによって、認定の、そのするかしないかについて考慮せよと、そういう要求は当然していないですよね。

○政府参考人(石月英雄君) 先ほど申し上げたとおり、難民認定につきましては、申請者ごとの申請内容を審査した上で、難民条約の定義に基づき難民と認定すべき者を個別に判断されているというふうに承知しておりまして、委員御指摘のようなことはしていないと承知しております。

○山添拓君 していないはずなのですよ。ところが、先ほど大臣が答弁いただいたクルド人などトルコ国籍者の難民認定率、これは世界では約四六%、二〇一八年の数字のようですが、ありましたが、日本では千人以上が申請されても過去認められたのは一人だけなんですね。これはクルド人をテロリストだとするトルコ政府への配慮なのかという疑念が在日クルド人や支援者から上げられております。
今申し上げた過去一件だけ認められたそのケースは、裁判で難民に不認定が違法と確定したのを受けてのものです。二〇一四年、トルコ当局による迫害の危険を逃れて来日し、二度にわたり難民申請を行ったものの認められず、一九年に提訴され、地裁では認められず、昨年五月の札幌高裁判決でようやく、帰国すれば迫害を受けるおそれがある、客観的事情が存在するとして難民該当性が認められたものです。国は上告せず、判決が確定し、その後の七月、入管庁は難民認定いたしました。クルド人が勝訴した判決は三件目なのですが、過去二件は判決後に再び不認定とされたため、入管庁がクルド人を難民認定したのは初めてといいます。
法務省に伺いますが、クルド人を一切難民認定してこなかったのは適切ではありませんでしたね。

○政府参考人(丸山秀治君) 難民認定業務を行うに当たりましては、関係法令及び通知、通達等に基づき業務を行っているところでございまして、難民認定申請がなされた場合は、申請者ごとに申請内容を審査した上で、難民条約の定義に基づき難民と認定すべき者を適切に認定しており、難民認定に当たって特定の国に対して外交的配慮を行うことはございません。

○山添拓君 札幌高裁の判決を受けて対応されたことはあるんですか。

○政府参考人(丸山秀治君) 一般論で申し上げますけれども、個々の行政訴訟の結果を踏まえまして、難民該当性の判断に当たって留意すべき点がある事案については、当該判決の要旨を伝達などしていると、地方局に対して伝達などしているところでございます。

○山添拓君 入管庁は保護すべきは適切に保護してきたとおっしゃっているわけですが、そうではないから裁判で違法とされるケースが相次いでいるわけです。ところが、今審議中の入管法改悪案にこの難民認定の在り方についての改善点はありません。
クルドだけではありません。日本の著しく低い難民認定率、つとに問題とされてきましたが、その背景に、難民認定は法務大臣が政治判断を含めて裁量的に行う、こういう発想があったんではないかと疑わざるを得ないと思うんです。
法務省にもう一点伺います。
入管という外国人の出入国管理と難民認定という外国人の保護とは時に対立するものです。だからこそ、野党の対案は、難民認定を切り離して独立した第三者機関に担わせることとしております。
今日お配りしている資料の二枚目、この研修教材によれば、そうした独立の認定機関を新たに設置することは行財政事情から困難だとして、既存の入管庁に担当させるのが適当だと述べています。今も同じ認識ですか。

○政府参考人(丸山秀治君) お答え申し上げます。
難民認定手続につきましては、その他の出入国在留管理行政上の様々な手続と密接に関連していることから、出入国在留管理庁において行うことが適当であると考えております。

○山添拓君 最新の研修教材を見せていただいたんですけれども、ここの記載は同じなんですよ。行財政事情だと。つまり、政府の懐具合を理由にして保護すべき難民を保護しない、国際人権水準を確保できないなどという事態がある。その言い訳はもう通用しないと思います。
最後に外務大臣に伺いますが、安保三文書の一つ、国家安全保障戦略は、我が国を含む先進民主主義国は、自由、民主主義、基本的人権の尊重、法の支配といった普遍的価値を擁護し、共存共栄の国際社会の形成を主導してきたなどと記しています。
ところが、その我が国の実態は、難民認定率でいえばG7で群を抜いて低いです。先進民主主義国と言えるんでしょうか。

○国務大臣(林芳正君) G7の広島サミットでの首脳コミュニケについては先ほど申し上げたとおりでございます。
そして、そこにも書かれておりますように、この十二月に第二回グローバル難民フォーラムというのが開かれるわけでございます。したがって、先ほど申し上げましたように、国際協力の精神に基づいて、難民に関するグローバル・コンパクト並びに国内の政策、法制度及び状況に沿った形で難民の包摂を支援するというコミットメント再確認しておりますが、このコミットメントに沿ってしっかりと対応してまいりたいと思っております。

○山添拓君 もう時間ですから終わりますが、自国の人権水準のことを聞いているわけです。我が国の人権水準です。これをつぶさに検証し、謙虚に受け止めようともせずに、普遍的価値の体現者であるかのように振る舞うのはやめるべきです。
入管法改悪案については反対、廃案にすべきだということも指摘し、質問を終わります。

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